蒸し暑い日本の夏に、ノルウェージャンフォレストキャットは向くのか

目次
  1. 七月の終わり、猫は畳と板の間の境目にいる
  2. 保温のために作られた体を、湿気のある部屋に置くと
  3. 昼に動かなくなるのは、季節の切り替わり
  4. 毛を短くする話と、部屋が暑い話は別
  5. 秋の下毛と、春の抜け毛
  6. 向き不向きは、部屋の側で数える

「蒸し暑い日本の夏にノルウェージャンフォレストキャットは向くのか」と問われたら、答えは猫の側ではなく部屋の側にある、と返す。この猫の体はノルウェーの海沿いで、冷たく湿った冬と涼しい夏を背景に形づくられてきた。密な下毛は熱を逃がすためではなく、外の冷気を遮るために積み上げられたものだ。だから日本の夏は「毛が長いから不利」なのではなく、室内の空気を動かし続けられるかどうかで過ごしやすさが決まる季節になる。血統や毛量で判定するより、夏のあいだ部屋をどう保つかで考えるほうが、暮らしの実感に合っている。

七月の終わり、猫は畳と板の間の境目にいる

七月の終わり、うちの猫は決まって廊下と畳の境目に寝そべっている。板の間のほうが冷たいと知っていて、半身だけ畳に乗せ、残りを板の間に落とす。昼過ぎに部屋へ入ると、その姿勢のまま目だけ動かして、また閉じる。冬なら同じ場所で丸くなり、長い尻尾を鼻先に巻きつけている。尻尾の使い方が季節で変わることを、私は図鑑より先に自分の床で覚えた。

冷房の風は部屋の右半分にしか届かない。左側は夕方まで空気が澱んだままだ。猫は迷わず右半分を選ぶ。人が思っているより、猫はずっと正確に部屋の空気の地図を持っている。だから夏のあいだ、私が調整しているのは猫ではなく、その地図のほうになる。建具をどこまで開けるか、どの窓から先に風を入れるか、日が落ちてからどの順番で部屋を冷ますか。

保温のために作られた体を、湿気のある部屋に置くと

ノルウェーの海岸沿いは、冬が長く、冷たく、湿っている。夏は涼しい。日本の夏は、その夏とは別物だ。気温の差より、空気が水を含んでいることのほうが大きい。

この猫の体は、がっしりした骨格、密な下毛、足裏の房毛、長く太い尻尾というふうに、寒さの側へ振り切った作りになっている。房毛は雪の上で体重を散らすためのものだという。それが、つるりとした板の間では少し滑っているように見える。尻尾は休むときに体に巻きつけるためのものだ。つまりどれも、熱を捨てるための装置ではない。捨てる側の設計は、この体にはほとんど入っていない。

「毛が長いから夏はかわいそう」という言い方をよく聞く。私にはそれが少しずれているように思える。長い毛は、置かれた空気の質をそのまま受ける。風通しのいい部屋と、窓が片側にしかない集合住宅の奥の部屋では、同じ長さの毛でも意味が変わってくる。だから私は、毛の長さと室温の話を同じ棚に置かないようにしている。

昼に動かなくなるのは、季節の切り替わり

梅雨が明けると、うちの猫の時間割が変わる。朝と夜に動いて、昼はほとんど動かない。流しに乗っているのを見つけたのは、たぶん七月の昼だった。風呂場のタイルに伏せていることもある。これはこの猫に限った話ではなく、蒸し暑い時期の猫全般の振る舞いだと思う。冷たい硬い場所を探す。動く量を落とす。寝場所が移動する。それは体調の話ではなく、季節への合わせ方の話だ。

ただし、この猫の場合、冬との差がはっきりしている。十一月に入ると昼間から部屋を歩き回るようになり、高い場所に上がり、夜中に廊下を往復する。断熱材をまとった体にとって、日本の多くの地域の冬は穏やかすぎるくらいで、ノルウェーの冬とは比べものにならない。私の中では、この猫の本番は冬で、夏はやり過ごす季節になっている。だから夏に動きが落ちても、それだけで何かが起きたとは思わない。季節が変われば戻る動きだと、何年か見てきた。

毛を短くする話と、部屋が暑い話は別

「夏は毛を刈ったほうがいいのか」と聞かれることがある。私はそれを、部屋が暑いことの答えには数えていない。刈ったところで部屋の空気は変わらないし、この猫の毛は寒さを遮るために重ねられてきたものだ。実際に効いているのは、空気の通り道と、猫が自分で選べる場所の数だと思っている。冷房の風が直接当たる場所と、風が届かない場所。その両方が一つの部屋にあるかどうか。猫はその二つを行き来して、自分でちょうどいい場所を探す。

秋の下毛と、春の抜け毛

十月の終わりごろ、下毛が立ち上がってくる。手を入れると、夏とは違う抵抗がある。毛が一枚厚くなったというより、空気の層を中に抱え込んだような手触りになる。冬のあいだの猫は、触ると少し大きく感じる。

三月から五月にかけては、その逆が起きる。抜け毛が畳の目に入り、部屋の隅に綿のような塊ができる。ブラシをかけると、もう一匹ぶんくらいの毛が出てくる。この二つの季節の変わり目が、この猫の毛が周りに合わせて動いていることを、いちばんはっきり見せてくれる。夏にだらりと伸びていた体が、秋に一回り丸くなる。その変化を見ていると、「夏に向くか向かないか」という問いの立て方自体が、少し窮屈に思えてくる。

向き不向きは、部屋の側で数える

夏のあいだ、この猫は「涼しい場所を探す生き物」に戻る。それは品種の弱さではなく、寒冷地向けの体を蒸し暑い部屋に持ち込んだときに起きる、当たり前の振る舞いの変化だ。だから迎える前に確かめるのは、血統でも毛量でもない。夏の午後にその部屋で空気が動くか。猫が移動できる場所がいくつあるか。昼間に人が建具を開けられるか。集合住宅の一室なら、窓が片側しかないことを前提にどう風を通すか。それを数えたうえで、向き不向きを決めればいい。

夜になって部屋が冷えると、猫は畳の真ん中に戻ってくる。長い尻尾を床に伸ばして、だらりと寝ている。あの姿勢を見るたびに思うのは、この猫は夏が嫌いなのではなく、夏のあいだだけ、部屋のほうに合わせてもらっているのだということだ。

猫の爪痕

執筆者について

猫の爪痕

猫と暮らす年月が長くなり、爪とぎの跡や換毛期の抜け毛が部屋の景色に溶け込んでしまった人たちです。多頭飼い、引っ越し、シニア猫との暮らしをそれぞれに経験しながら、猫種ごとの性格や手入れの重さを日々の暮らしの中で見てきました。

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