血統書は、その猫がどの登録団体に登録され、どんな祖先から生まれたかを記録した書類であり、折れ耳や短足という形質がその子の体に負担をかけないと保証するものではない。折れ耳も短足も、団体の基準(スタンダード)のなかでは「その猫種らしい特徴」として明記されている形質で、基準は見た目をそろえるために書かれた文章だからだ。同じ猫種を認める団体と認めない団体があり、「登録されている」ことと「福祉の面で大丈夫だと確認されている」ことは別の話になる。

こたつの上に、血統書を一枚広げてみる。思っていたより質素な紙だ。クリーム色の地に団体のロゴ、猫種名、生年月日、性別、登録番号。その下に父猫と母猫、さらに祖父母、曾祖父母と名前が並んでいく。同じ形式の紙を何度か見ているうちに、これは家系図であって健康診断の結果ではない、という当たり前のことが体のほうに落ちてくる。
紙の端を押さえていると、うちの子が横を歩いてきて、爪がフローリングでカツカツと鳴った。音の軽さで、その日の脚の調子がなんとなく分かる。この音は、どの欄にも書かれていない。
血統書に書かれていること、書かれていないこと
広げた紙を指でなぞりながら、項目を数えてみる。猫種名、登録番号、生年月日、性別、毛色、父猫と母猫の名前と登録番号、その上の代の名前、そして猫舎名(キャッテリーネーム)と登録した人の名前。ここまでが血統書の基本的な中身だ。
逆に、書かれていないものが多い。股関節や膝のレントゲンの結果、軟骨の状態、心臓の検査、親猫が受けた健康診断の内容。団体や猫舎によっては別の書類を添えていることもあるが、血統書そのものは血のつながりの記録で、体の検査結果を載せる欄は基本的にない。
だから私はこの紙を、安心の証明としてではなく、質問をするための道具として使っている。猫舎名と祖先の並びがあれば、ブリーダーに聞くべきことが具体的になる。
基準は「見た目をそろえる」ために書かれている
スタンダードという言葉を、最初は「良い猫の条件」だと思っていた。少し違った。あれは、その猫種がどんな耳、どんな脚、どんな被毛、どんな体型であるべきかを文章で定義した、見た目の設計図だ。審査の場に個体を並べるとき、同じ猫種のものを同じ物差しで見るための約束事でもある。
折れ耳の猫種の基準には、耳が前方に折れて垂れていることが書かれている。短足の猫種の基準には、脚が短いことが書かれている。つまり基準を満たすとは、そういう形で生まれているということで、関節や軟骨が丈夫であることとは別の話だ。むしろ、福祉の立場から懸念されている形質を、基準の側は「その猫種の持ち味」として要求している。ここが、血統書と安心が同じものに見えてしまう正体だと思う。
団体によって折れ耳・短足の扱いが分かれる理由
登録団体は役所ではなく、猫を登録している民間の集まりだ。それぞれが自分で基準を作り、自分で承認する。だから折れ耳や短足をめぐる線の引き方も、団体ごとに違ってくる。
折れ耳の場合、問題にされているのは耳の形そのものより、耳を折るもとになっている軟骨の性質だ。耳の軟骨が折れる遺伝的な性質は、耳だけにとどまらず、全身の関節の軟骨にも関わることがある。そのため、折れ耳の猫種を登録の対象から外したり、繁殖を勧めない姿勢を明らかにしたりする団体がある。一方で認めている団体は、折れ耳同士の掛け合わせを禁じるといった別の線引きで管理している。
短足の場合も似ている。脚が短いのは、長い骨の成長の仕方が他の猫と違うためで、腰の骨の並びや胸の形に影響が出ることがあると指摘されている。だから登録しない、あるいは繁殖を推奨しないという判断をする団体があり、認めている団体は基準のなかで脚の長さや体型を細かく規定する。
私が調べた範囲では、折れ耳の猫種を認めていない団体があり、認めて登録している団体もある。短足の猫種も同じで、認めている団体と、認めていない団体に分かれている。どちらが正しいかをここで決めるつもりはない。ただ、同じ材料を違う重さで測っているということだけは押さえておきたい。基準を持っているのは団体であって、獣医でも行政でもない。
「登録がある」は「どこでも認められている」ではない
「血統書付き」という言葉を、ペットショップや譲渡の場面でよく見る。あれは、どこかの団体に登録されているという意味で、世界中の団体がその猫種を認めているという意味ではない。ある団体が出した一枚が、別の団体の登録としては扱われないことがある。猫種名の書き方も団体によって違い、折れ耳の猫種から生まれた立ち耳の子が、別の名前で登録されることもある。同じ親から折れ耳の子と立ち耳の子が生まれることは珍しくない。
なので、海外の団体の方針を調べて「認められていないらしい」と知ったとき、それは手元の紙が無効だという話ではない。手元の紙が示しているのは、その団体の基準に沿って登録されたという事実だけだ。
迎える前に、私が紙より先に見ているもの
迎えるかどうかで迷っていた時期、私は血統書より先に、その子の動きを見ていた。ケージから出してもらったあと、まず歩き方。フローリングで滑るときに爪を広げて踏ん張るか、脚をかばうように小刻みに歩かないか。段差を上るときに一度止まって前脚を掛け直すか。走ったあとに座り込んでしばらく動かないか。抱き上げたときに、脚を触られていやがらないか。耳の根元をさわられるのを嫌がるか。
これらは検査の数値ではない。ただ、毎日の暮らしの快適さは、この程度の観察でかなり見えてくる。血統書が何団体のものかより、その子が今どれだけ身軽に動けているかのほうが、迎えたあとの時間にずっと強く効いてくる。
家に来てから続けていること
フローリングには滑り止めのマットを敷く。キャットタワーは段の間隔が細かいものを選ぶ。高い窓辺にはスロープかステップを置く。爪とぎは動きにくい重さのものにする。折れ耳や短足の子に限った話ではないが、脚に負担のかかりやすい形の子と暮らすなら、先に用意しておいたほうがいい。
かかりつけの動物病院では、迎えたあとに一度全身を見てもらった。体重の増え方、歩き方、爪の伸び方、耳の汚れ、関節の動き。折れ耳や短足だから特別な治療が必要という話ではなく、その子の今の状態を記録しておくという意味だ。定期的に通っていれば、変化があったときに比較できる。
そして、血統書は聞くための道具として使う。猫舎名と祖先の並びを見ながら、折れ耳同士の掛け合わせをしていないか、親猫の関節について獣医に相談したことはあるか、同じ家系で脚や腰の相談が出たことはあるか。返ってくる答えの具体性のほうが、紙一枚よりずっと多くのことを教えてくれる。
血統書は出自をたどるのに役立つ。手放したくない書類だ。ただ、それだけで折れ耳や短足の子の体が安心だと言えるものではない。安心は、毎日の歩き方と、爪の音と、獣医の手のひらで少しずつ作っていくものだと思っている。