ロシアンブルーは、ロシア北部のアルハンゲリスク港に由来する単一の短毛種で、登録基準のなかでは体格、被毛のつくり、声の小ささ、なじみの薄い相手への距離の取り方、運動量、そして住まいへの収まり方が、ばらばらの項目ではなく一続きの特徴として書かれている。だから断片を一つずつ暗記するより、一頭分の輪郭をそのまま頭に置いたほうが、日々の判断がぶれにくい。ここから先に書くのは特定の個体の保証ではなく、多くの個体を見わたしたときに浮かび上がる傾向としての姿だ。

私はその輪郭を、6畳ほどの部屋で確かめた。夏の夕方、冷房の効いた部屋の本棚の上で、猫は前脚をそろえて伏せていた。名前を呼ぶと、鳴くというより小さく息を吐くような音が返ってきて、それからゆっくり棚を降りてくる。床に座った私の脇に来て、座る。触れようとすると逃げるわけではないが、抱き上げようとすると体を硬くして離れる。この距離の取り方に、最初はとまどった。人嫌いなのではない。なじんだ相手にだけ、決まった濃さで寄ってくる。それが登録基準に書かれている「なじみの薄い相手への控えめさ」と「特定の相手への強い執着」の、実際の手触りだった。
由来は港の名前から始まる
早期の英語圏の記録では、この猫は「アークエンジェル・キャット」と呼ばれていた。アルハンゲリスクの英語名がアークエンジェルで、北極海に近いこの港から船に乗って運ばれた猫、という説明がつく。その後の品種整理のなかで、名前はロシアンブルーに落ち着く。
ここで私が気にするのは、物語そのものの真偽より、この由来が後から何を引き寄せたかだ。寒い土地の猫というイメージは被毛の密度の説明と結びつきやすく、実際に登録基準の被毛の記述は「密なダブルコート」を軸に組まれている。由来は、その後の特徴の読み方を方向づけてしまう。だから由来の話は、年表として覚えるより、被毛や体格の記述を読むときの前提として置いておくほうが役に立つ。
体格と被毛を、手のひらで確かめる
中型で、筋肉質。それでいて横から見ると線が細く見える。骨格はしっかりしているのに、輪郭がうるさくない。被毛に手を逆方向へ滑らせると、毛が起き上がって、すぐ元に戻る。この戻りの速さが、密度の証拠になる。長さは短く、下毛が詰まっている。だから見た目のボリュームより、触ったときの詰まりのほうが強い。
色はブルーグレーで、一本一本の毛先が明るい。この毛先の色が、いわゆるシルバーの光をつくる。だから同じ猫でも、昼の窓辺では明るい銀に見え、夜の照明では濃いグレーに見える。単一の色ではなく、光の当たり方で表情が変わる色だ。写真で見た印象と、実際に部屋で見た印象が食い違うことがあるのは、この構造のせいだと思っている。
気質は、傾向として読む
登録基準の記述を並べると、声は小さく、鳴き方は控えめ。来客があると、ソファの下やタワーの上に静かに引く。警戒して大きな声を出すのではなく、見えなくなる。いっぽうで、毎日世話をする相手には、決まった時間に決まった場所で寄ってくる。
ここで誤解されやすいのは、これを「人嫌い」と読んでしまうことだ。私が見ていた限り、来客と家族の扱いははっきり分かれていた。家族が複数いれば、そのなかでも特に濃く寄る相手が一人か二人に絞られる。これは性格の良し悪しではなく、距離の設計の仕方だと考えている。
ただし、これも傾向にすぎない。同じ登録基準のなかにも「〜する傾向がある」「〜とされる」という書き方が残っている。子猫のとき人懐こかったから大人もそうとは限らないし、逆も同じだ。この但し書きは記事の最後にまとめて置くより、最初から前提として持っておくほうがいい。
運動量は、真ん中の少し下
朝と夕方に短い遊びの時間。それ以外は寝ているか、高い場所から部屋を見ている。猫じゃらしを10分振れば満足するが、一日中走り回るタイプではない。だから「運動不足が心配」という形より、「毎日の順番が崩れると落ち着かない」という形で影響が出る。
餌の時間、遊ぶ時間、寝る場所。この三つが固定されると、こちらが何も言わなくても同じ流れで動く。逆に、家具の配置を大きく変えたり、生活時間が数日続けて乱れたりすると、高い場所から降りてこなくなる。運動量の話をしているようで、実はリズムの話をしている。
手入れの重さは、季節で二段階に変わる
毛が長くないので、ふだんのブラッシングは週に一、二回で足りる時期もある。問題は換毛期だ。春と秋、下毛が入れ替わる時期は別の生き物のように抜ける。密な下毛は抜けた毛を体に留めやすく、撫でるだけでも手のひらに毛が残る。この時期だけは、毎日、短時間でいいからブラシをかける。逆に、それ以外の時期に回数を増やすと嫌がられて、ブラッシングそのものが嫌いになる。重い時期と軽い時期を、はっきり分けて考えるほうがうまくいく。
部屋の広さより、縦の使い方
集合住宅でも庭のある家でも、この猫が求めるのは面積より「上に行ける場所」と「毎日同じ順番」だ。キャットタワーの一番上、本棚の一段、窓際の棚。部屋が広くても隠れ場所と高い場所がなければ落ち着かないし、6畳でもこの二つがあれば足りる。
私が見ていた部屋で、猫が一日のうちで一番長く過ごしたのは窓際の棚の上だった。そこから部屋の全部が見える。人が出入りする音も、玄関の気配も、全部把握できる位置だ。面積を足すより、見晴らしのいい一段を足すほうが効く。
暖房の冬と、蒸す夏
暖房の効いた冬の室内は問題ない。被毛が密なので寒さは苦にしない。日本の夏の湿気は、長毛種ほど負担にはならないが、涼しい場所を用意することは要る。風通しのよい床、タイルの上、冷房の効いた部屋の隅。猫が涼しい場所を探して移動する姿が見えたら、部屋の温度配置を見直す合図だと思っている。
避けたいのは、冷房を切った締め切った部屋に一日置くこと。暑さでぐったりするというより、動かなくなる。動かないことが当たり前になってから気づくのでは遅いので、夏は「どこにいるか」を冬より頻繁に確認する。
寿命は、平均より少し長いくらい
公表されている飼育ガイドでは、10代半ばまでという書き方が多い。ただし幅は広く、これは個体差の話であって、保証の数字ではない。私が数字から受け取っているのは、長さそのものより「10年以上同じ部屋で過ごす前提で、部屋をつくったほうがいい」という合図だ。高い場所は歳をとっても昇れるように段を細かくする。遊びの強度は歳とともに落とす。先に書いた縦の空間とリズムの話は、10年後の猫のためでもある。
輪郭を出発点にする
最初に戻る。ここまで書いたことのどれも「必ずそうなる」ではない。由来、体格、被毛、気質、運動量、手入れ、住まい、気候、寿命。これらは一頭の猫のなかでつながっているから、一つだけを取り出して「ロシアンブルーとはこういう猫」と決めることはできない。
私が部屋で見たのは、その輪郭の一例にすぎない。迎えるときは、この輪郭を出発点にして、目の前の猫がそこからどれだけ離れているかを見る。離れていることは失敗ではない。むしろ、そこから個体の話が始まる。