短毛種が日本の夏と冬に強いか弱いかは、毛の長さだけでは決まらない。効くのは下毛の密度と体格、そしてその子が実際に過ごしている部屋の空気のほうだ。だから「短毛だから夏は平気」「短毛だから冬は寒がる」という言い方は、どちらも半分しか当たっていない。同じ短毛種のなかでも、真夏に床へ伸びて動かなくなる子と、暖房の効いた部屋で冬中平然としている子が同時にいる。見るべきなのは毛の長さではなく、その子が一日のうちでどの場所を選んでいるかになる。
七月の夕方、私はリビングの畳に座って、うちの猫が畳とフローリングの境目に体を置いているのを眺めていた。前足と胸だけ畳の上、腹と後ろ足は板の上。エアコンは人が快適に感じる設定で、風向きは上。サーキュレーターが部屋の空気をゆっくり回している。同じ部屋のなかに、畳の湿った柔らかさと、板の硬くてひんやりした面と、風が通る場所と淀む場所がある。猫はその地図を、こちらが想像するよりずっと細かく持っている。この夏、うちの子が出した答えは「半分だけ畳」だった。
それを見てから、私は毛の長さで猫の暑さ寒さを考えるのをやめた。
「短毛は涼しい」がずれる理由
短毛というのは、毛が短いというだけで、毛が少ないという意味ではない。日本の猫に多い、短くて密な下毛を持つタイプは、見た目はつるりとしているのに、体中に空気の層を抱えている。逆撫ですると指が毛の間に沈む。あの下毛は冬には優秀な断熱材で、夏にはちょっとした上着になる。だから七月にこのタイプが床に伸びているのを見ると、短毛=涼しいという前提はすぐ崩れる。
反対に、シャム系やベンガルのように下毛がほとんどない単毛の短毛は、見た目は同じ「短毛種」でも、冬になると明らかに寒がる。括りとしては同じ棚に並んでいるのに、やっていることは正反対に近い。毛の長さより、下毛があるかどうかのほうが効く。
体格と体脂肪も同じくらい効く
皮下脂肪の厚いぽっちゃりした子は、夏に堪える。冬は強い。筋肉質で皮下脂肪の薄い子は逆で、冬の冷えが直接くる。同じ部屋、同じ設定でも、丸くなっている子と伸びている子が分かれるのはだいたいここだ。うちの猫はどちらかというと痩せ型なので、私は冬のほうを気にしている。
湿度が高いと、短毛は逃げ場を失う
猫は人ほど汗をかけない。肉球の裏にわずかにあるくらいで、暑さの多くは毛繕いで唾液を毛に広げ、それが乾くときの気化熱で逃がしている。だから日本の夏は、気温そのものより湿度が効く。乾いた暑さならまだ逃げようがある。梅雨の終わりから八月にかけての蒸し暑さは、体の表面に薄い水の膜がある状態に近い。
この時期に猫がフローリング、玄関のタイル、洗面所、脱衣所へ移動していたら、それは毛をどうにかしているのではなく、床を探している。冷たい面を腹に当てられる場所がひとつでも残っているかどうかで、夏の過ごしやすさはかなり変わる。
畳は湿気を含む。梅雨から夏にかけての畳は、猫にとっては暖かくて重い場所になる。それが十二月になると、同じ畳が今度は一番ありがたい場所に変わる。一枚の畳が、季節で意味を変えるのが面白い。
冬に効いているのは毛ではなく空気の層
冬の寒さは下から来る。床が冷え、窓際に空気の壁ができる。猫は丸くなって表面積を減らし、鼻先をしっぽで覆う。うちの子がしっぽで鼻を隠し始めたら、私は座布団を一枚増やす。
こたつ、ホットカーペット、人の膝、日向。短毛の子は暖かい場所の奪い合いになりやすい。逆に、暖かい場所が一箇所しかないと、そこを取り合うか、諦めて冷たいところで丸くなるかのどちらかになる。だからうちでは、暖かい寝床をわざと散らして置いている。数のほうが大事で、一箇所に集めない。
単毛の子は冬が本当にきつい
下毛のないタイプは、暖房を切った夜に一気に冷える。断熱の層が体にないので、部屋の温度がそのまま体に入ってくる。同じ短毛種でも、冬の備えの必要性はかなり違う。布団の上、人の足の間、日当たりのいい椅子。そういう場所をいくつ持っているかで、冬の顔つきが変わる。
暖房と冷房が換毛のリズムを狂わせる
猫の毛の入れ替わりは、主に日の長さと気温で決まる。春に冬毛が抜け、秋に夏毛が抜ける。ところが日本の室内は、エアコンで夏も冬もそれなりに一定に保たれている。だから秋の換毛が遅れる、春先まで抜け続ける、ということが起きる。外の季節と、猫が体で感じている季節がずれていく。
短毛種は抜け毛が少ないと思われがちだが、下毛が密なら量は多い。毛が短いぶん一本一本が軽く、床に散ると目立たない代わりに、気づくと溜まっている。
うちでは、季節でブラシの頻度を決めるのをやめて、抜け始めを見てから増やすようにしている。春と秋というカレンダーではなく、猫の体のほうに合わせる。暖房を入れる時期が早い年は、抜けのタイミングも早い。十二月にまだ抜けている、という年もあった。
いちばん判断が難しいのは季節の変わり目
夏と冬そのものより、間のほうが難しい。梅雨入りで湿度が跳ね上がる日。十月の、まだ暖房を入れていないのに急に冷える日。三月の、暖房を切ったら朝が寒い日。
猫はこの時期に、はっきり合図を出す。同じ場所で丸くなり始める、日向を追いかけ始める、高いところに上らなくなる。私が「まだ早いだろう」と思っていても、猫が丸くなっていれば、それが正しい。一枚敷く。それだけで翌朝の様子が変わる。
うちで実際にやっている夏と冬の調整
夏にしていること
エアコンの風を猫に直接当てない。風向きを上げるか、サーキュレーターで撹拌して部屋全体を動かす。人が快適な設定は、猫には寒いことがある。夏なのに猫が日向に移動していたら、冷えすぎているサインかもしれない。
日差しはカーテンやすだれで切って、日陰を作る。冷たい床にいられる場所をひとつ残す。除湿だけを動かす日を作る。水飲み場を増やす。朝の涼しい時間に窓を開けて、空気を入れ替える。
冬にしていること
寝床を複数作る。暖かい場所と、そうでもない場所の両方を残す。床に薄いものを一枚敷く。加湿を意識する。乾燥すると被毛がぱさつき、静電気で毛が立つ。ドラフトを切る。窓際と廊下の通り道は、思っている以上に冷える。
暖房を上げすぎないことも大事だ。猫の快適な温度帯は人より高めだと言われる。だから人が少し暑いと感じるくらいがちょうどよく、人が薄着で快適な設定は、猫には肌寒いことがある。これは夏の冷房でも冬の暖房でも同じ理屈になる。
シニアになると前提が変わる
年を取ると、体温調整の幅が狭くなる。若い頃と同じ部屋にいても、同じようには感じていない。自分でいい場所に移動する力も落ちる。高いところに上らなくなる、日向を追わなくなる、そういう変化が先に出る。
毛艶が落ち、毛が薄くなり、筋肉が減る。寒さに対してやることが、若い頃とは変わる。私はドラフトの当たらない、床から離れた、柔らかい場所を一つ確保するようにしている。そこが冬の基準点になる。
猫の寝場所が季節の答えを出している
うちの子は、夏は板の上、冬は畳の上、梅雨は脱衣所、真冬の夜は人の足の間。毎年おおよそ同じで、少しずつ違う。その移動を見ていると、毛の長さについて考える時間は減っていく。
短毛か長毛かは、カタログの上でははっきり分けられる。部屋のなかでは、もっと細かい。下毛の量、体格、年齢、そしてその日の湿度。同じ短毛種でも、答えは別々に出る。
だから迷ったら、毛ではなく、その日その子がどこにいるかを見る。移動が始まったら、部屋のほうを変える。それでだいたい足りる。