爪切りは大人が猫を支えて行い、子供はおやつを持つ。ブラッシングは、猫がいつでも歩き出せる体勢のまま、大人が隣に座って手を添え、子供へ少しずつ渡していく。この二つを同じ日に同じ調子で始めると、たいてい数週間で止まる。任せる線引きは子供の年齢で決めるものではなく、「誰が猫の体に触れ、誰がタイミングを取るか」を段階ごとに分けて、何か月もかけて動かしていくものだ。

リビングのカーペットの上で、私は猫を膝にのせ、爪切りを手に取った。子供が「持ちたい」と言うので、前足を持たせてみた。猫が小さく引いた瞬間に子供の指へ力が入り、猫が抜けて、床に転がっていたおやつを食べた。引いたらおやつが出る。その日のうちに、うちの分担は決まった。猫の体を持つのは大人、おやつを持つのは子供。
爪切りで子供が渡されるのは、足ではなくおやつ
爪切りは、大人の仕事として最後まで残る。理由は技術の差ではない。猫の足先は動きが小さく、どこで止めるかを読む必要がある。一方で、おやつを渡す役は「タイミングを取る」だけの仕事で、これは練習で身につく。だからうちでは、子供を猫のすぐ真横には座らせず、少し離れた場所から、猫が動かずにいられた瞬間に、小さく割ったおやつを置く。引いたあとにあげてしまうと、引くことが報酬になる。これは何度も失敗した。
最初のうち、子供はおやつを握ったまま待てない。猫が鳴くと先に手が出る。それでも爪切りの回数は月に数回しかないのだから、この練習はゆっくりでいい。
ブラシを渡せるかどうかは、被毛の長さで先に決まる
短毛種なら、ブラッシングは週に数分で足りる。時間が短いということは、猫が嫌がる前に終われるということでもある。だから短毛種の家では、子供がブラシを持つ日は比較的早く来る。十分な時間を保てるかどうかが、子供に渡せるかどうかの分かれ目になる。
長毛種は話が別だ。ほぼ毎日、しかも一箇所ずつ丁寧に見ていく必要がある。長い時間ブラシを当てることになるので、途中で猫が立ちたくなる場面が必ず出る。ここを子供に任せると、猫が動いたときに追いかける形になりやすい。だから長毛種の家では、メインは大人が持ち、子供は「猫がいちばん嫌がらない場所」を三十秒だけ担当する、という形から始める。長毛種を迎えた家では、子供が主担当になる日が来ないままでも不思議ではない。来ないなら来ないで、それが普通だと思っている。
キャリーは、出かける日に出すものではない
キャリーは普段から部屋の隅に開けて置く。うちでは蓋を折り返したまま、中にタオルを一枚敷いてある。猫は昼寝に使うこともあれば、数日まったく無視することもある。それでいい。大事なのは、キャリーが出てきた日は「どこかへ行く日」ではないと猫が知っていることだ。
子供の役割は、その中に自分の使わなくなったタオルを入れること。あるいは、ただ跨いで通り過ぎること。出かける朝にキャリーを揺らして猫を誘うのは、大人でも失敗する。学校の行事の前にキャリーを出して、そのあと猫が二日ほど部屋の隅で小さくなっていたことがあった。原因は移動ではなく、前日にキャリーが「出てきた」ことだった。
猫が立ち上がったら、その日は終わり
ブラッシングは、長く一回やるより、短く何回もやるほうが残る。猫が立ち上がったら、その時点で終わりにする。引き留めない。これを繰り返すと、猫は「逃げれば終わる」ではなく「逃げる前に終わる」を覚える。うちの猫は途中で尻尾を振って知らせてくるようになった。
このとき、子供に守らせたいのは「止める」ほうの技術だ。大人が「終わり」と言ったら、ブラシをすぐ床に置く。あと一回だけ、はしない。あと一回を許すと、子供の手は止まらない手になる。止まる手だと分かれば、猫はその手を怖がらない。
段階は、行き来しながら上がる
目安として、うちではこんな順番で動いた。
- 大人が全部やる。子供は二歩後ろで見る。おやつも大人が渡す。
- 子供がおやつを持つ。猫の体には触れない。
- 子供が手のひらで、背中を一度だけ撫でる。ブラシはまだ持たない。
- 子供がブラシを持ち、猫の体にはつけずに、空中で一度だけ動かす。
- 大人の手が猫の背中にあり、その上から子供の手が動く。
- 子供がブラシを持つ。大人は同じ部屋にいるが、手は出さない。
一つ進むのに数週間かかる。爪切りだけは、この順番の外にある。子供が猫を持つ段階は飛ばしていい。飛ばしたほうがいい。
失敗のサインは、猫より先に子供に出る
子供が危ないときは、猫が暴れる前に分かる。息を止める。前のめりになる。左手が猫の首のほうへ寄る。ブラシを持つ手が、猫の体に沿わずに浮く。このどれかが出たら、大人は静かに「代わるね」と言って受け取る。怒らない。引き継ぎを罰にすると、子供は次の回にサインを隠すようになる。隠されたサインが、いちばん困る。
何か月かかるかは、猫のほうが決める
落ち着いた短毛種で、じっとしていられる子なら、ブラシだけは一、二か月で渡せることがある。逆に、長毛種で警戒の強い猫と、まだ四、五歳の子の組み合わせなら、その子の役割は何年も「おやつを持つ人」と「キャリーにタオルを入れる人」のままでいい。役割が小さいことは、失敗ではない。
線引きは「大人の仕事」と「子供の仕事」の間に引くものではない、と思っている。爪切りという一つの作業のなかに、猫を支える部分と、おやつを渡す部分があって、その内側に線を引く。ブラッシングも同じで、ブラシを持つ人、止める人、猫が逃げられる空間を保つ人がいる。同じ作業のなかに、いくつもの持ち場がある。
うちで今も変わらないのは、爪切りのとき子供がおやつを持っていることだ。猫は爪切りを嫌がらない。正確には、終わったあとに何かもらえる時間として覚えている。役割を分けたのは、猫のためでも、子供のためでもなく、たぶんその両方だった。