暑さに強い猫の特徴は、被毛の構造、体格、そしてその猫種が形づくられてきた原産地の気候という3つの変数から考えられる。猫の登録団体の基準表に「暑さ」という欄はないから、これは公式な分類ではない。毛の内側に熱を抱え込む層があるか、体の表面積に対して体積がどれくらいあるか、その体がどんな気候のなかで選ばれてきたか。この3つを重ねて見る、こちら側の整理のしかただ。ひとつの条件だけで決まるものではないし、順位をつける話でもない。まずは、目の前にいる一匹に当てはめるところから始まる。

夏のいちばん暑い時期、私はよく家の廊下に座り込む。畳の部屋より2度ほど低い、タイル張りの細い通路で、その冷たさに猫のほうが先に気づく。昼過ぎ、カーテン越しの光が届くあたりで、猫は前脚と後脚を思いきり前と後ろに投げ出し、腹を床にぴたりとつけて伸びている。あなたも今、その猫の横に膝をついているところを思い浮かべてほしい。手を伸ばせば触れる距離だ。ここから先は、この一匹を材料にした観察の話になる。
毛をかき分けたら、層がいくつあるか
まず触るのは背中だ。毛を逆立てないように、指の腹でゆっくり根元まで分け入る。指先に伝わる抵抗の質で、その猫の毛がどう組み立てられているかがだいたい分かる。
猫の毛は、外側の硬い上毛(ガードヘア)と、内側の柔らかい下毛(アンダーコート)の二層でできている。上毛は水や汚れをはじき、下毛は空気を抱えて体温を逃がさない。断熱の主役はこの下毛だ。だから、毛をかき分けたときに肌の上に羊毛のような密度の高い層が詰まっている猫と、肌がうっすら透けて見える猫とでは、体の熱の扱い方が違ってくる。
寒い土地で形づくられた長毛種、たとえばノルウェージャンフォレストキャットやメインクーンは、この下毛を厚く備えた二重被毛で知られる。断熱の層が厚いということは、冬の側では強いということだ。そして夏になると、その同じ層が季節の変わり目にまとめて抜ける。抜け毛の量に驚くのは、毛が暑さに弱いからではなく、断熱材を衣替えしているからだ。
ここで一度、混同をほどいておきたい。長毛だから暑い、短毛だから涼しい、という単純な話ではない。下毛がほとんどない、あるいは非常に薄い猫種もいる。毛が一本一本立ち上がって肌の上に空気の通り道を残すタイプは、毛が長くても蒸れにくい。逆に、短くても密度が高くぴったり張りつく毛は、熱を内側に抱えやすい。見るべきは毛の長さではなく、層の数と密度だ。
体の線を、上から手でなぞる
毛の次は体つきを見る。背中に手を置き、肩から腰まで一度なぞってみる。肋骨の上をすっと滑る手応えと、厚みのある胸に当たって止まる手応えとでは、印象がはっきり違う。
猫の体は、大きく二つの方向に振れる。ひとつは、ずんぐりとした体つき、いわゆるコビー型だ。胸は厚く、脚は短めで、首と胴の境目がはっきりしない。もうひとつは、細く筋肉質な体つきで、アビシニアンやロシアンブルーのように、腹に引き締まったくびれがあり、脚が長い。
この違いが夏に効いてくるのは、体の表面積と体積の比率の話だ。熱は体積の側から生まれ、表面から抜けていく。同じ体重なら、体が細長く表面積が大きいほうが、熱を外に逃がすのに向いている。反対に、体がまとまって丸いほうは熱を内側に保ちやすい。コビー型が寒さに強いとされるのは、その形が保温の側に振れているからで、放熱という点では遠い側にある、というだけのことだ。
猫の側も、この理屈に従って動いている。猫が汗をかける場所は肉球の裏だけだ。だから体温を逃がすときは、呼吸を速めて口から熱を出し、同時に体を長く伸ばして表面積を稼ぐ。あの無防備な伸びは、だらけているのではなく、形を変えて放熱している。夏の猫は、丸くなっている時間と伸びている時間の配分を見るだけでも、こちらが何かを測るより正確なことが分かる。
原産地は、その体が選ばれた気候の話
三つ目は、その猫種がどんな気候のなかで形づくられてきたかだ。ここは誤解が多い。原産地は、今その猫が住んでいる場所ではない。その体の設計が、どの環境で長い時間をかけて選ばれてきたかの記録だ。
寒い地域で成立した猫種は、断熱の方向に体が寄っている。厚い下毛、がっしりした骨格、小ぶりな耳。逆に温暖な地域で成立した猫種は、毛が短く、下毛が薄く、体が細い方向に寄っている。アビシニアンやロシアンブルーが暖かい気候に合った体型として説明されるのは、この流れの延長にある。ただし、これは集団としての傾向であって、一匹ずつの保証ではない。
そして、ここが日本の暮らしでいちばん大事なところだ。日本で迎える猫にとって、原産地がどこであれ、夏は暑く、そして湿度が高い。高温多湿という条件は、乾いた暑さとは別のものとして効いてくる。汗をかける場所が限られている猫は、主に呼吸と皮膚表面からの蒸発で熱を逃がす。空気がすでに水分で満ちていると、その蒸発が進みにくい。だから気温が同じでも、湿度が上がる日は体感の負荷が変わる。室温の数字だけを見て安心するのは、この部分を取りこぼしている。
猫が選んだ場所が、その猫の答え
三つの変数を並べたところで、最後は目の前の一匹に戻る。ここで役に立つのが、猫がどこで寝ているかだ。
日本の家には、ひんやりした面がいくつかある。タイルの廊下、洗面所の床、玄関の三和土、ときには流しのシンクの中。夏になると猫がこうした場所へ移動するのは、冷たいからというだけではない。コンクリートやタイルは熱を蓄えにくく、体の熱を吸い取ってくれる。猫は自分で、家の中でいちばん放熱しやすい場所を探し当てている。
だから観察するなら、毛を数えるより、その移動の記録を見たほうが早い。朝はどこにいて、午後はどこへ移ったか。同じ部屋の同じ場所に一日中こもっているのか、時間ごとに面を変えているのか。後者なら、その猫は自分で調整できている。前者なら、その家の中で逃げ場が足りていないかもしれない。この判断に、猫種の名前は要らない。
3つの変数は、断定ではなく問いの形で使う
ひとつ断っておきたい。ここまで並べてきたのは、すべて集団としての傾向だ。同じ猫種でも、年齢、体型、そして一匹ごとの個体差で、夏の過ごしやすさは動く。子猫と高齢猫では体の熱の扱いが違い、太った体は断熱材を一着まとっているのに近い。毛の層が厚い猫が、必ずしも夏に苦しむわけではない。涼しい部屋で静かに過ごすことを覚えている猫もいる。
だからこの3つは、答えを出すための道具ではなく、問いを立てるための道具として使うといい。毛は二層か、一層か。体は丸い側か、細い側か。その猫の祖先はどんな気候で選ばれてきたか。この三つを、タイルの上で伸びている一匹に重ねてみる。答えは、その猫が今寝ている場所に、もう書いてある。