大きな耳と細い体つきが放熱に関わる、猫の体型と暑さの話

目次
  1. 熱の出口は、まず手足の裏にある
  2. 重さより「面積÷体重」で見る
  3. がっしり型とほそ長型、そして日本の猫
  4. 同じ猫でも、年齢で変わる
  5. 毛と湿気は、片側だけの話ではない

猫が暑さをやり過ごせるかどうかは、体重の大小よりも、体表面積に対してどれだけの熱を抱え、どれだけ空気に逃がせるかでおおむね決まる。耳が大きく薄い、体が細長い、マズルが長いといった特徴は、いずれも放熱の面積を稼ぐ方向に働く。だから大きな猫が必ず暑さに弱いわけではないし、小さな猫が必ず平気でもない。体型だけを見て「この子は暑さに強い」と決めることは、私にはできない。

大きな耳と細い体つきが放熱に関わる、猫の体型と暑さの話

八月の午後、部屋のなかでいちばん涼しい板を見つけるのは、いつも私より先に猫のほうだった。畳の部屋から続くフローリング、窓からいちばん遠いところに、うちの猫は前脚も後脚も投げ出すように伸びている。扇風機が首を振るたび、耳の先だけが風の来たほうへ小さく向く。しゃがんで手のひらを床に置くと、猫のお腹の下の板だけがひんやりしていた。あの伸びきった格好は、怠けているというより、お腹と脇という広い面を空気に当てている姿勢だ。見るたびに、この子は今、体の面積を出しているんだなと思う。

熱の出口は、まず手足の裏にある

猫が熱を逃がす出口としてよく挙げられるのは、肉球、口を開けて息を速めること、そして体を伸ばして空気に触れる面を増やす姿勢の三つだ。このうち、私が毎日いちばん長く見ているのは肉球である。

夏になると、フローリングにうっすら足跡が残る。猫の肉球に汗腺があることは一般に知られていて、その湿りが汗なのか、床の結露なのか、直前に舐めた唾液なのか、私には見分けがつかない。ただ、肉球が熱の出口のひとつであることは、触れば分かる。夏の肉球は冬より確かに温かい。

薄い耳という放熱板

耳は毛が薄く、皮膚も薄く、血管が表面の近くを通っている。面積が大きいほど、熱を逃がす面として効くだろうと一般に説明される。私の手の感覚でも、暑い日に耳の縁をつまむと、背中の毛をかき分けたときよりも温かく感じる。冬は逆に冷たい。数値ではなく手の印象だが、耳が体温の出入り口になっていることは、触っていると納得できる。

だから、耳の大きな猫と小さな猫を並べて見ると、放熱の面の大きさは違ってくる。耳が大きいというのは、見た目の愛らしさの話ではなく、体の面積の話でもある。

マズルの長さが変える面の広さ

鼻先から目の下までの距離が長ければ、それだけ空気に触れる顔の面は広くなる。短ければ狭くなる。これは猫種のあいだで目に見える構造の違いのひとつで、私は顔を横から見たときの輪郭の長さとして、いつも意識している。

重さより「面積÷体重」で見る

味噌汁を大きな鍋で作ったときと、小さな鍋で少量作ったときでは、冷め方が違う。量が少ないほうが早く冷める。猫の体でも同じで、体重に対して表面積が大きいほど熱を捨てやすい。

反対に、体が重いということは、それだけ発熱量そのものが多いということでもある。しかも体重が増えるとき、表面積は同じ割合では増えない。だから重い体は、面積比では不利な側に傾く。

ここまでを足し合わせると、「大きいか小さいか」だけでは決まらないと分かる。大きな猫でも、耳が大きく、胴が長く、マズルが長く、脂肪が薄ければ、放熱の条件は悪くない。小さな猫でも、耳が小さく、胴が短く詰まり、毛が密なら、面積比では苦しい。大きさは目印にすぎない。

がっしり型とほそ長型、そして日本の猫

ブリティッシュショートヘアのようなコビー型は、胸が広く、脚が短く、体の線が丸い。丸いというのは、同じ体重なら表面積が小さくなる方向の形だ。オリエンタル系は長く、骨が細く、ほそ長い。線が細いぶん、体重あたりの面積は大きい側に傾く。

日本の猫であるジャパニーズボブテイルは、中型で、筋肉質で脂肪が薄く、胴が長い。尾が短いのが特徴だが、尾の長さは放熱の面積としてはたかが知れている、と私は思っている。それよりも胴の長さと、筋肉で引き締まった体つきのほうが、面積比の話には効いてくる。

同じ猫でも、年齢で変わる

若い猫は軽く、面積比は大きい側にある。年を追うごとに体重が増えれば、比は下がっていく。若い頃は一日じゅう床に張りついていた猫が、数年後の八月には、廊下側の空気の動く場所ばかり選ぶようになる。同じ部屋、同じ夏でも、選ぶ板が変わる。体重が増えたぶん、少しでも風のある場所が要るようになったのだろう、と勝手に解釈している。

同じ猫が、同じ暑さの中で違う顔をする。これは体型の話であると同時に、時間の話でもある。

毛と湿気は、片側だけの話ではない

被毛は断熱材だ。放熱を邪魔する。でも同時に、外からの熱も通しにくい。だから長毛だから暑さに弱い、と単純には言えない。夏に刈るべきかどうかも、私は一概に言えないと思っている。

湿気も同じで、口を開けた息で熱を逃がす働きは、空気が乾いているほうが効きやすい。日本の八月の空気は水を含んでいる。同じ気温でも、放熱の効率は変わってくる、という理解で見ている。

だから私は、夏に体型から「強い・弱い」を決めるのをやめた。見ているのは、その日の耳の縁の温度、床に残る足跡、伸びている体の面の広さ。大きな猫が不利とは限らないし、小さな猫が安泰でもない。同じ猫でも、去年とまったく同じ夏は来ない。面積の出し方を見れば、だいたいのことは分かる。

猫の爪痕

執筆者について

猫の爪痕

猫と暮らす年月が長くなり、爪とぎの跡や換毛期の抜け毛が部屋の景色に溶け込んでしまった人たちです。多頭飼い、引っ越し、シニア猫との暮らしをそれぞれに経験しながら、猫種ごとの性格や手入れの重さを日々の暮らしの中で見てきました。

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