寒い国の猫だから夏も安心ではない クリリアンボブテイルと日本の気候

目次
  1. 原産地の寒さは、部屋の蒸し暑さを説明しない
  2. 抜け毛は少しずつではなく、まとめて来る
  3. 外の気温より、湿度計の数字を見るようになった
  4. 冬の暖房が、次の夏の毛を決める
  5. 木造と鉄筋コンクリートで、同じ夏が別物になる
  6. 迎える前に見るのは、由来ではなく部屋のほう

クリリアンボブテイルは寒い国の猫だから夏も大丈夫——その前提は、日本の住まいの中ではほとんど役に立たない。暑さを左右するのは原産地の気温ではなく、その部屋の湿度、抜け毛がまとめて落ちる時期にどこまで手を入れられるか、そして木造か鉄筋コンクリートかという建物の性格のほうだ。

七月の午後、畳の部屋の隅に置いた温湿度計は七十八パーセントを指していた。網戸は開いている。外は三十三度、室内は三十度。数字だけを見れば外より涼しい。それなのに床に伸びた猫の背中の毛は、湿気を含んで一枚の板のようになっている。手のひらを当てると、毛の下の熱がこもって戻ってくる。ブラシで一度すくうと、下毛が綿のように塊で取れた。七月なのに、まだ抜ける。

原産地の寒さは、部屋の蒸し暑さを説明しない

クリリアンボブテイルの来歴は千島列島だ。冬が長く、夏は短くて涼しい亜寒帯の島。だから紹介の文章では決まって「寒さに強い猫」と書かれる。私も最初はそう受け取っていた。寒いところの猫なら、暑いところも多少は平気だろう、と。

その読み方は半分当たっていて、半分は見当違いだ。当たっているのは毛の話で、外れているのは部屋の話である。この猫はロングもショートも、どちらも密な下毛を持つ。下毛は寒さを防ぐ層で、同時に熱を逃がしにくい層でもある。つまり「寒さに強い」と「暑さに強い」は同じコインの裏表ではない。毛足の構造は冬に有利で、夏には不利に働く。原産地が涼しいという事実は、その不利を打ち消してはくれない。

ただし、だから「夏に弱い猫」と決めつけるのも乱暴だ。同じ猫種でも毛量も体格も違うし、過ごす部屋が違えば結果も変わる。私が言えるのは、由来を根拠に安心するのは早い、というところまでだ。

抜け毛は少しずつではなく、まとめて来る

亜寒帯の季節は、緩やかに移ろわない。短い夏が終われば、長い冬が一気に来る。その切り替えに合わせて毛を替える猫を、私たちは湿度の高い長い夏の中で飼っている。だから換毛は「年中少しずつ」ではなく「春と秋にまとめて」になる。

六月の終わりから七月にかけて、ブラシを持つ回数が増える。ラバーブラシで撫でるようにすくい、取れた分を丸めて捨てる。金属のコームは毛玉ができかけたときだけ。畳の目には細い毛が刺さって、粘着ローラーでは取りきれない。毎日少しずつやるしかない。一度に全部取ろうとすると、猫のほうが先に飽きて逃げる。

この「まとめて来る」感覚は、知っておくと気持ちの準備が違う。抜け毛が増えるのは体の異常ではなく、季節の切り替えの合図だ。逆に、ずっと一定の量しか抜けないほうが、私は落ち着かない。

外の気温より、湿度計の数字を見るようになった

猫は体温を、体の仕組みだけで調整しているわけではない。涼しい場所を探して移動する。伸びて体を大きく広げる。動く量を減らす。息が上がるのも、その手段のひとつに入る。つまり環境の作り方でかなり変わる。原産地がどこかより、部屋のどこに涼しさが残るかのほうが効く。

だから私が見るのは天気予報の最高気温ではなく、畳の部屋の温湿度計だ。三十度でも湿度が低ければ、猫はまだ平然と歩き回っている。二十九度でも湿度が高いと、床に張りついたままだ。エアコンはつけるが、設定温度より風の道を気にする。冷気がどこに溜まるか、扇風機でどう流すか。猫は冷たい場所を自分で探すので、選べる場所を二つ三つ残しておく。畳、フローリング、浴室前のタイル。直接風が当たる場所は、たいてい自分で避ける。

冬の暖房が、次の夏の毛を決める

冬の話を挟むのは、これが夏と繋がっているからだ。暖房の効いた部屋は乾く。乾いた空気の中では、毛が静電気で逆立つ。ブラシを入れると毛がふわっと浮いて、梳きたい方向に流れない。絡みやすくなる。

乾いた部屋で冬を越した年は、春の換毛が妙に手こずる。気のせいかもしれないが、毛が塊になりやすい。だから冬のあいだも、加湿と、ブラシの前に手を軽く湿らせる程度のことはやっている。大げさな道具は要らない。加湿器の置き場所と、洗濯物を部屋に干す習慣で足りることが多い。

木造と鉄筋コンクリートで、同じ夏が別物になる

同じ街の同じ七月でも、家が違えば別の季節になる。木造は蓄熱が小さく、朝は涼しい。昼に上がっても、風が通れば夜には戻る。そのかわり隙間が多く、湿気は外から入ってくる。鉄筋コンクリートは蓄熱が大きく、夜になっても壁が温かいままだ。湿度が抜けにくく、廊下や浴室前だけ妙に冷える。猫がそこに寝ているのを何度も見た。

これは好みの問題ではなく、条件の話だ。賃貸なら窓の向きも階も断熱も選べない。だから他の家の「うちの子は夏も平気」という話は、参考程度にしかならない。条件が違えば、同じ猫種でも体感は変わる。

迎える前に見るのは、由来ではなく部屋のほう

クリリアンボブテイルを迎えるかどうかを考えるとき、原産地が寒い国かどうかは、正直あまり役に立たない。見るべきは、住まいの窓の向き、階、日当たり、湿度計を置ける場所があるか、ブラシを毎日手に取れる動線があるか。そして、夏のあいだ猫が移動できる涼しい場所を、いくつ確保できるか。

全部は揃わない。私の家も揃っていない。それでも、どこが足りないかを知っていれば、夏の過ごし方は変えられる。原産地は猫の来歴であって、住まいの設計図ではない。

猫の爪痕

執筆者について

猫の爪痕

猫と暮らす年月が長くなり、爪とぎの跡や換毛期の抜け毛が部屋の景色に溶け込んでしまった人たちです。多頭飼い、引っ越し、シニア猫との暮らしをそれぞれに経験しながら、猫種ごとの性格や手入れの重さを日々の暮らしの中で見てきました。

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