エアコン一台の部屋でも、猫が夏と冬を越せる場所はつくれる

目次
  1. 八月の夕方、部屋は予報より暑い
  2. 猫は暑さに強く、寒さに弱い
  3. 毛の長さで、夏の手入れは別の仕事になる
  4. 十二月、暖房は部屋から水を奪う
  5. 場所を三つ、季節ごとに入れ替える
  6. 梅雨入り前と、十一月に

エアコン一台の部屋でも、猫は夏と冬を越せる。ただし「部屋全体を一定の温度に保つ」という前提を捨てて、猫が自分で選べる場所をいくつか残す組み立てに変える必要がある。冷たい床、日だまり、風の当たらない隅。この三つを季節ごとに入れ替えながら確保しておけば、一台でも足りる。

去年の八月、西向きの窓しかない六畳の部屋で、私はそのことを覚えた。夕方五時、カーテンを開けたまま出かけた日に戻ってくると、室温計は外の予報より四度高い数字を指していた。窓ガラスに手を近づけると熱い。壁ぎわの畳は、部屋の真ん中よりはっきり涼しい。猫はその差を、私より先に見つけていた。畳のへりと巾木のあいだ、幅十センチほどの帯に、腹をぴったりつけて伸びていた。

その部屋にはエアコンが一台しかない。六畳の一部屋に一台で、隣の部屋にはない。だから夏も冬も、この一台でどうにかするしかなかった。最初の年は設定温度を下げることばかり考えていた。二台目を置く余裕はないし、そもそも借り物の部屋だ。三年目になって、考え方が変わった。部屋を冷やすのではなく、猫が涼しい場所へ移れるようにする。それだけだった。

八月の夕方、部屋は予報より暑い

最上階の角部屋は、外の気温と別の生き物みたいになる。昼のあいだ屋根と外壁が熱を持ち、それが夕方にじわじわ室内へ返ってくる。窓を開けても、気密の高い集合住宅では空気の通り道がない。二十四時間換気は外気を入れるだけで、冷やす装置ではない。だから外が三十度の日でも、室内の計は三十四度を指すことがある。

最初に効いたのは、冷やすことではなく、入れないことだった。窓の外側にすだれを掛ける。ベランダの物干しに簾を渡すだけでも、窓ガラスに触れたときの熱さが変わる。内側のカーテンだけを閉めると、熱はガラスと布のあいだに溜まって、触ればわかるほど温かくなる。これは体感で、数字の話ではない。自分の手のひらで確かめられる。

エアコンのフィルターも、想像より効く。梅雨のあいだに埃を吸ったフィルターは、冷えを確実に鈍らせる。室外機の前に物を置かない。この二つを済ませるだけで、同じ設定温度の風が別物になる。

猫は暑さに強く、寒さに弱い

ここが人と逆で、いちばん間違えやすい。猫が体温を保つためにエネルギーを使わない周囲温度は、人よりずっと高い側にある。三十度前後でも、猫にとっては「ちょうどいい」に入る。だから夏、人が快適に感じる二十六度は、猫にはやや涼しい。夏は人の快適域の上めでいい。

逆に冬は、猫のほうが弱い。十五年ほど前から同じ部屋で暮らしているが、冬の猫はよく丸くなる。短毛の猫が床で小さくなっているのを見ると、夏の設定温度をそのまま冬に持ち込むのは違うとわかる。

ただしこれは一般論で、老齢の猫、痩せた猫、毛量の多い猫、通院している猫では話が変わる。持病のことは私が判断する話ではない。かかりつけに聞く。そこは線を引いている。

汗をかける場所が、肉球しかない

湿度の話を先に書く。猫はほとんど汗をかけない。体温を逃がす経路が人より少ないので、空気が湿っていると、温度が同じでも放熱の効率が落ちる。日本の夏は、気温より湿度だと思っている。

私の部屋では、二十八度で湿度が七十%を超えると、猫は床に伸びて動かない。二十六度で五十%なら、いつも通りに遊ぶ。同じ「暑い」でも中身が違う。だから冷房は弱で回し続けて、温度より空気の重さを取る。除湿を強くかけると効きすぎて、猫が日だまりに戻っていくのも何度か見た。

目安としては、室温は人が薄手の服で過ごせる範囲、湿度は四十から六十%の帯。そこを外れると猫の寝る場所と寝方が変わる、というのが私の見方だ。数字そのものが目的ではない。猫が移動するかどうかが信号になる。

毛の長さで、夏の手入れは別の仕事になる

長毛の猫は、保温性が高い。ペルシャでもメインクーンでもラグドールでも、夏は暑さがこたえる側にいる。だからといって、剃るのは勧めない。毛は断熱材で、夏は外からの熱を遮り、冬は体温を抱える。剃ると日射にも冷えにも弱くなる。これは身近で失敗した話を聞いて、自分はやらないと決めた。

夏にやるのは梳くことだ。長くブラッシングするのではなく、短くこまめに。換毛期にアンダーコートを梳いて風通しをつくる。二重毛皮の短毛種も、見た目より毛が密で、抜け毛の量は多い。シングルコートの猫は抜けにくいかわりに、寒さには弱い。同じ部屋で同じ夏を過ごしていても、手入れの重さはまったく違う。無毛の猫なら、夏は日差し、冬は冷えで、また別の設計になる。

十二月、暖房は部屋から水を奪う

暖房を入れ始めると、湿度計がみるみる下がる。窓の結露が消える。それが合図だ。猫の毛が逆立ち、撫でるとパチッとくる。毛先が乾いて広がる。あれは合図だと思っている。

加湿器を買い足す前に、うちで効いたのは生活の側から出す水分だった。洗濯物を部屋に干す。風呂上がりに脱衣所の扉を開けたままにする。煮物の鍋の湯気を逃がさない。それで四十%台に戻る日が増える。湿度が戻ると、猫の毛が寝て、手触りが変わる。

温度より、寝場所の話だと思っている。床は冷える。フローリングに直接伸びているなら、段ボール一枚、座布団一枚で床からの冷えは変わる。暖房の設定を上げるより、下を断つ。それだけで冬の猫は静かになる。

場所を三つ、季節ごとに入れ替える

やっていることは一年中同じで、中身が入れ替わる。冷たい面、暖かい面、風の当たらない隅。この三つを、季節ごとに別の場所に割り当てる。

夏は、フローリングかタイル、あるいは涼しい畳のへり。窓際の日だまりは、夏になると危ない場所に変わる。だから日除けを外に出しておく。エアコンの風が直接当たる場所は、猫は意外と避ける。風向きは上に向ける。冷気は下に溜まるので、上から回したほうが部屋が均される。

冬は逆になる。日だまり、暖房の風下、高い場所。暖気は上に溜まるから、キャットタワーの上段は冬の特等席で、夏は地獄になる。同じ道具が、季節で意味を変える。だからタワーを置く位置も、夏と冬でずらす。庭のある家なら木陰がある。集合住宅にはそれがないので、部屋の中に木陰をつくる。簾と、家具の影と、エアコンの風の当たらない隅が、その代わりになる。

猫は一日のうちで自分でローテーションを組んでいる。朝は窓際、昼は床、夕方は廊下。だから家具を動かすとき、段ボールを捨てるときは、代わりの場所を先に用意する。順番を逆にすると、猫は行き場をなくして、だいたい私の椅子の上に来る。

梅雨入り前と、十一月に

準備は、その季節が来てからでは間に合わない。暑くなってからエアコンを試すと、たいてい最初の猛暑日に不調が見つかる。寒くなってから加湿を考えると、最初の冷え込みで乾燥に気づく。どちらも毎年必ず来るのだから、先に動かしておけばいい。

梅雨入りの前に、フィルターを洗い、室外機のまわりを空け、除湿を一度回してみる。十一月に、暖房を一度回し、風向きを下に向け、加湿の段取りを決める。合わせて二時間ほどの作業で、その年が変わる。

留守にすることも書いておく。仕事で昼間いない日、切るかどうかは部屋の形と猫の齢で変わる。私の部屋は夏はつけっぱなし、冬は切って日だまりに任せている。これはこの間取りでの話で、すべての人に同じことを言うつもりはない。

部屋は、猫にとっては天気そのものだ。エアコン一台で、その天気の全部は動かせない。動かせないのなら、猫が動ける余地を残す。冷たい床と、日だまりと、風の当たらない隅。その三つを入れ替えながら、夏と冬は越えていく。

猫の爪痕

執筆者について

猫の爪痕

猫と暮らす年月が長くなり、爪とぎの跡や換毛期の抜け毛が部屋の景色に溶け込んでしまった人たちです。多頭飼い、引っ越し、シニア猫との暮らしをそれぞれに経験しながら、猫種ごとの性格や手入れの重さを日々の暮らしの中で見てきました。

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