朝5時の鳴き声を減らすのに効くのは、猫をしつけて黙らせることではなく、前の晩の順番と時刻を組み替えることだ。寝る60〜90分前に遊びを入れ、その流れのまま食事を出し、食べ終わったら部屋の明かりと自分の反応を落とす。この「遊ぶ、食べる、眠る」を毎晩同じ時刻に置くと、猫は待つようになり、未明に人間を探して鳴く理由が一つ減る。あわせて、自分の起きる時刻を先に決めて、鳴いたかどうかで対応が変わらない形にしておく。鳴き声を止める訓練ではなく、鳴かれても困らない夜の設計の話だ。

4時40分、畳の上で爪が一度鳴る
部屋はまだ青い。エアコンの表示だけが光っていて、カーテンの下の隙間から、ぼんやりした明るさが畳に落ちている。その畳の上で、爪が一度鳴る。鋭いほうの音ではない。歩くときに出る、あの軽い音だ。
隣で寝ているあなたにも、その足音は聞こえているはずだ。少し間があって、低く短く「ア」と一声。また間。もう一声。この間の取り方で、その日の要求の種類がだいたい分かる。続けて何度も鳴るなら食事。移動しながら単発で鳴るなら、こちらの生存確認。枕元まで来て、顔の高さの畳を前足で叩き始めたら、もう完全に「起きろ」の意味だ。
最初の数年、私はこれに負けていた。布団をかぶって耐える。5分、まだ鳴く。仕方なく手を伸ばして背中を一度だけ撫でる。静かになる。ほっとしたのもつかの間、4時55分にまた鳴る。いちばんまずかったのは、眠さに負けて起き上がり、皿にカリカリを数粒だけ入れた朝だ。あれがいちばん長く続いた。30分の睡眠を買ったつもりで、翌朝の4時30分を前払いしていた。
猫は薄明薄暮性で、明け方と夕方にいちばん動く。性格ではなく時間帯の性質なので、うちの猫だけが早起きなわけではない。個体差はあるが、夜通し眠って朝も寝ている猫のほうが、猫としてはむしろ少数派だと思っている。だから「鳴かせない」を目標にすると、ほぼ確実に失敗する。狙うのは、鳴いても何も起きない時間帯と、鳴けば必ず何かが起きる時間帯を、はっきり分けることだ。
季節でも動く。夏は4時台に空が白むから、遮光の弱いカーテンなら5時前には部屋の輪郭が見え始める。実際、私のところでは6月と7月が最も早く、真冬は6時近くまで待っていた。鳴く時刻が季節で前後するのは、猫の側の異常ではない。
夜の順番を「予告」に変える
21時を過ぎたら、部屋の照明を一段落とす。それから遊ぶ。ここで大事なのは、竿を振り回さないことだ。床に這わせて、逃げる獲物のように動かす。猫が追う形になる。10分もすると瞳孔が開いて、しっぽの付け根が動いて、途中で座り込んで休む。休むのは飽きたからではなく、獲物を仕留める前の溜めだ。
終わりは必ず「捕まえる」で終わらせる。こちらが疲れたからといって、追わせたまま竿を置くと、猫の中では狩りが終わっていない。捕まえた後は自然に毛づくろいが始まる。その毛づくろいが合図で、食事を出す。順番は遊び、食事、毛づくろい、睡眠。狩って、食べて、身づくろいして、寝る。もともと猫が一日の中で何度か繰り返している流れを、夜の側に一度だけ丁寧に置く。
この順番の効果は、遊びの強度より「毎日同じ時刻に来ること」のほうが大きい。予告があると、猫は待つ。予告がないと、猫は探す。探すという行為が、鳴き声になって出てくる。22時に必ず遊びが始まり22時半に必ず食事が出るなら、猫は21時50分に定位置で待っていられる。待てる時間が増えるほど、未明に探す時間が減る。
食べる時間の長さが、夜の長さを決める
一日中フードが皿に出ている状態だと、食事は猫が自分で解決できるものになる。それ自体は静かでいい面もある。問題は逆のときで、いつ出るか分からない状態だと、人間のほうがごはんの発生源になる。発生源を監視するのが、鳴いて呼ぶという行動だ。
だから変えるのは回数より時刻だ。私のところでは朝は決まった時刻、夜は遊びのあと。夜は缶を開ける音が合図になっているので、その音を朝には出さない。朝の支度はできるだけ静かにする。合図を朝に残さないだけで、未明への期待が少し薄まる。これが効いたのは、遊びの内容を変えたどの日よりも大きかった。
食べる時間そのものを伸ばすのも効く。ウェットフードを少量混ぜる、転がすと数粒ずつ落ちる給餌器に入れる、畳に数粒を散らして探させる。最後のひとつは後で掃除する前提だが、嗅いで探す時間は猫にとって濃い時間になる。5分で終わる食事が20分になれば、そのぶん猫は夜の側で起きている。起きている時間が夜に寄れば、明け方の側が軽くなる。
量は一日の総量の中で調整する。回数を増やして総量も増やすと、体重にそのまま出る。長くするのは時間で、量ではない。
いちばん効いてしまうのは、中途半端な反応
私がいちばん長く失敗したのは、反応するか無視するかの二択だと思っていたことだ。実際は逆で、いちばん強く残るのは中途半端な反応だった。布団の中で小さく「ダメ」と言う。手を伸ばして一度だけ撫でる。枕元に数粒置く。ドアを開けてトイレだけ行かせて戻る。どれも完全な応答ではないが、猫から見れば「鳴くと何かが起きる」という一点で完全な成功だ。
なので先に決めるのは、自分の起きる時刻。目覚ましを4時50分にしておいて、鳴いても鳴かなくても4時50分に起きる。起きたら同じ手順で同じものを出す。鳴いたから出た、という形にしない。これを1週間ほど続けると、鳴く必要そのものが薄くなっていく。早く起きる必要はない。普段の起床時刻をそのまま予告として使うだけでいい。
難しいのは、こちらが眠いことだ。3日目に一度折れると、ほぼ最初に戻る。だから気合いに頼らず、仕組みにする。耳栓をして寝る。寝室に通知の光るものを置かない。ドアを閉める。自分の側を守る準備を先に整えておくと、4時40分の一声で判断しなくて済む。
寝る場所を分けるとき
ドアを閉める、リビングに寝床を作る、というのは、猫のためというより家のための選択だ。日本の集合住宅だと、未明の鳴き声は自分の睡眠だけでは済まない。防音の弱い建物なら、5時の声は隣の部屋に届く。私がドアを閉めるようになったのは、猫のためではなく、朝5時に鳴き声がする家としてご近所に説明できる状態を保つためだった。
準備するのは、日中の定位置より少し高い寝床、匂いのついた毛布、飲み水。そして最初の数晩、ドアの前で鳴くことを想定しておく。ここで一回開けると、それまでの数晩が消える。うちは平日は閉めて休日は一緒に寝る、という折衷を試したが、これは失敗した。休日の朝だけ反応があると、猫の時計は「週に2回は鳴けば開く」に更新される。曜日で変えるなら、鳴き声ではなく自分の起きる時刻のほうを変える。
音についても少し。一定の音を流し続けると、外の物音で目が覚めにくくなる。それは自分の睡眠側の対策であって、猫が静かになる仕掛けではない。そこを混同すると、音を止めた朝にがっかりすることになる。
工夫で動く範囲、動かない範囲
ここまでの話が効くのは、鳴き方に「いつも通り」がある場合だ。年を取ってから夜中に鳴くようになった、以前と鳴き方が変わった、一日中続く、食欲や水の量が変わった、トイレの回数が増えた、体重や毛づやが変わった。このどれかがあるなら、夜の順番をどう組み替えても動かない。それは生活の設計ではなく、かかりつけに相談する領域だ。
私にも覚えがある。2週間ばかり遊びと食事の時刻を細かくいじって、まったく変わらなかった時期がある。後から思うと、その2週間は猫のためにも自分のためにも使えていなかった。生活の調整で動く範囲と動かない範囲を先に見極めるほうが、あれこれ試すより早い。
どの鳴き声を残すか
最後に線引きをしておく。全部の鳴き声を静かにさせたいわけではない。帰宅したときの声、遊んでほしいときの声、違う部屋にいるときの呼び声は、暮らしの中の会話だ。減らしたいのは、こちらが眠っている時間帯に、こちらを起こす目的で出ている声だけ。
この線を先に引いておくと、朝の対応がぶれない。ぶれないことのほうが、遊びの道具を替えるよりも、食事の量をいじるよりも、たぶん効く。猫が鳴くのをやめるのではなく、鳴かなくても大丈夫な夜を、こちらが先に作っておく。朝5時の声を減らすというのは、結局その作業のことだ。