バーマンのブラッシングは、長毛種という言葉で身構えるほどには重くない。基本は週に2〜3回、1回10分前後。春と秋の換毛期だけ、ほぼ毎日に切り替わる。この毛は絹のような手触りのシングルコートで、下毛が薄い。だからペルシャ系のように毛玉が連鎖して塊になることは少ない。代わりに、抜けた毛が静かに、そしてまとまった量で部屋へ落ちる。大変さの正体は、もつれをほどく時間ではなく、抜け毛がどこに積もるかという話になる。
夜、リビングの灯りをひとつ落として、膝の上にバーマンを乗せる。片手で胸の下を支え、もう片方の手のひらを背中に当てて、毛の流れに沿って一度だけ撫でる。指先が皮膚の温度まで届く。これが最初の確認で、たいていの場合、指は途中で止まらない。下毛が詰まっていないからだ。以前、知り合いのペルシャ系を撫でたときは、指が毛の層に飲み込まれて、皮膚に届く前に止まった。あの感覚と比べると、バーマンの毛は薄い絹を一枚かぶせた状態に近い。
だからといって、手入れが要らないという話にはならない。撫でるたびに、手のひらには確かに毛が残る。
週2〜3回、10分で何をしているのか
ブラシを毛の流れに沿わせて、肩から腰へ、腰から尾へと流す。引っかかりを探すというより、抜けた毛をすくい上げる時間だ。10分というのは、私の場合、猫が膝から降りるまでの長さでもある。長くやろうとすると、途中で飽きて、尾を一振りして去っていく。だから10分は努力目標ではなく、相手が許す上限にかなり近い。
冬のあいだは、この10分で足りる。手のひらに残る毛は、丸めても小指の先ほどの塊になるかならないか。問題は春だ。
換毛期は「毎日」に切り替わる
三月の終わりごろ、背中を撫でたときの手触りが、なんとなく浮く。毛が立つというほどではないが、手のひらに残る量が増える。その週のうちに、フローリングの隅に毛の帯ができる。風の通る場所、つまりドアの下や家具の脚のまわりに、綿菓子のような薄い塊が溜まっていく。
ここから二〜三週間は毎日やる。1回10分を一日二回に分けることもある。朝、出かける前に5分、帰ってきてから5分。猫が長くじっとしていられないからではなく、私のほうが10分続けて集中すると、猫より先に疲れるからだ。地味な作業なので、一日一回にまとめるより、短く分けたほうが続く。
秋は春より少し穏やかだが、量は出る。夏毛から冬毛への切り替えなので、春ほど派手ではない。それでも二週間ほどは、ブラシを毎日置いておくことになる。
もつれる場所は、だいたい決まっている
全身を均等に磨く必要はない。見る場所は四箇所で、耳の後ろ、前足の付け根、お腹、尾の付け根だ。
耳の後ろは、毛が薄くて皮膚がよく動く。指で毛をかき分けたときに、米粒ほどの固まりができていたら、そこで引っ張らない。指先でほぐしてから、ブラシを流す。引っ張って取ると、そのあと触られるのを嫌がるようになる。
前足の付け根は、歩くたびに毛が擦れ合う場所だ。ここは毛が細く、絡むと皮膚に近いところで固まる。脇を開かせるのに時間がかかる猫なら、無理に押さえず、前足を前に伸ばした姿勢のまま、外側から指を差し込むだけにする。
お腹は、床と接する面。寝ている時間が長い子ほど、毛が寝て固まりやすい。ただし触られるのを嫌がる場所でもあるので、ここだけは一度で終わらせず、数日に分けて少しずつ見る。
尾の付け根は、油分が出やすい。毛が束になって、しっとり重くなる。ブラシは尾の先から根元へではなく、根元から先へ流す。逆向きに当てると、そこで絡む。
日本の湿度と暖房が、手触りを変える
梅雨に入ると、毛が湿って束になる。乾いていないのに撫でると、手のひらに重さが残る。こういう日は、ブラッシングの前に部屋の空気を動かす。除湿とサーキュレーターで、まず毛の表面を乾かす。乾いたところでブラシを入れると、するりと抜ける。湿ったまま無理に梳くと、抜けきらない毛が絡んで、かえって手間が増える。
冬は逆で、暖房で乾く。毛が逆立ち、ブラシの上で静電気が起きる。加湿器を入れて、湿度計を部屋の見える場所に置いておく。極端に乾かさない範囲で保つ。これは猫のためというより、私が作業していて気持ちよく終われるかどうかの話でもある。
畳の部屋とフローリングでは、毛の行き先が違う。フローリングは粘着のコロコロで拾いやすいが、畳は目に入る。掃除機のヘッドを畳用に替えると、一度でかなり取れる。このへんは猫の手入れではなく住まいの手入れで、実はそちらのほうが時間を使う。
年を取ると、やり方が変わる
若いころは10分平気だった子が、歳を取ると5分で落ち着かなくなる。皮膚が薄くなり、同じ力で撫でても嫌がるようになる。そのときは、一度に長くではなく、一度に二分を一日に何度かに分ける。その日のうちに全部をきれいにしようとしない。高齢期は、きれいにすることより、嫌な時間にしないことが優先になる。短く終わらせて、また明日触る。それでいい。
手入れの時間は、体を見る時間でもある
ブラシを持つと、自然に手が体の上を全部通る。だから、体重の変化、しこりのようなもの、皮膚の色、歩き方の違いに気づく。気づくだけで、判断はしない。気になったら、その場で調べず、獣医師に渡す。私がするのは「いつもと違う」と覚えておくところまでだ。
最後に負荷の見積もりを置いておく。普段は週2〜3回、1回10分で、一週間で30分ほど。換毛期の二〜三週間は毎日10分だから、そこだけ週70分。住まいの掃除を足すと、換毛期は倍近くなる。数字にすると、長毛種の中では軽い部類に入る。重いのは、毛を梳く時間ではなく、抜けた毛を部屋から回収する時間のほうだ。