バーマンの由来をたどると、伝説と実際の歴史が分かれる

目次
  1. 伝説は、捨てない。ただし証拠にはしない
  2. 記録に残る線は、フランスの猫舎から始まる
  3. 日本に来たのは、伝説ではなく戦後の流れ
  4. 白い手袋は、神聖さではなく規格の側にある
  5. 二本を持ち分けたまま、猫を見る

バーマンの由来は、寺の伝説とフランスでの品種成立という、別々の二本の線でできている。語り継がれてきたのは、ビルマの寺を守った白い猫が黄金の毛と金色の瞳を得て、足先だけを白く残したという物語だ。記録として追える品種の歴史は20世紀はじめのフランスに始まり、第二次世界大戦でいったんほぼ消え、わずかな頭数から立て直されている。この二本を一本に混ぜた瞬間に、話はだいたいおかしくなる。

血統書を低いテーブルに広げて、上から順に生年を指でなぞることがある。畳の上ではバーマンが片前足を投げ出していて、白い手袋が手首の手前で、はっきり終わっている。紙の上でいちばん古い日付でも十数年前だ。その上には、別の国で誰かが書いた猫舎の名前と登録番号が並んでいる。子どもの頃に読んだ猫の本には、その何百年も前の寺の話が挿絵つきで載っていた。同じ猫の話なのに、紙と挿絵のあいだには、どうにも埋まらない隙間がある。

その隙間をどう扱うかで、この猫の見え方は変わる。

伝説は、捨てない。ただし証拠にはしない

よく語られる筋はこうだ。ビルマの山中の寺に、老いた僧と白い猫がいた。僧が息を引き取るとき、猫がその胸に前足を置いて、像の瞳を見つめる。すると毛が黄金色に、瞳が金色に変わり、前足の先だけが白く残った。

この話がいつ、誰の手で形になったのかは、私には確かめられない。少なくとも、手元の血統書や登録の書類とは別の棚に置くべき種類の話だ。ただ、伝説が生まれた理由はよく分かる。手袋と瞳の色という、この猫のいちばん目につく二つの特徴に、由来の説明を与えている。人は猫を見るとき、まず模様の意味を知りたがる。その問いに答える形になっているのだ。

だから伝説を聞いて迎えるのは、悪くない。悪いのは、伝説を根拠に何かを決めることだ。寺の猫だから手入れが軽い、寺の猫だから大人しい、というふうに話がつながると、その先でつまずく。

記録に残る線は、フランスの猫舎から始まる

文献で追えるのは、20世紀はじめのフランスで、ビルマから持ち帰られた猫をもとに品種として整えられ、ビルマにちなんで Birman と名づけられた、という流れだ。寺から連れ出したという部分は伝聞の域を出ない、と私は理解している。名前の由来だけははっきりしている。フランス語では「ビルマン」に近く、日本語のバーマンは英語読みの Birman を経由している。つまりこの名前には、猫そのものより、当時の人がビルマという土地に重ねた連想のほうが色濃く残っている。

戦争で一度、線が切れている

第二次世界大戦でヨーロッパの猫舎は大きな打撃を受け、バーマンもほぼ姿を消した。残ったのはごくわずかな頭数だったとされ、戦後はペルシャやシャムを交えて繁殖を立て直すことが認められた、というのが登録団体の歴史として語られている。この時期にタイプの幅が広がったという見方もある。

この「一度くびれた」事実は、血統書を見るときに効いてくる。どの家系にも同じように表れるわけではないが、遡っていくと細い区間に突き当たる家系がある。頭数の少ない時期を経た品種は、どこかにその跡を持つ。伝説を信じるかどうかとは無関係に、紙の上にはそういう形で残る。

日本に来たのは、伝説ではなく戦後の流れ

品種としての登録が20世紀半ばに主要な登録団体で整い、その後、各国へ広がった。日本に入ってきたのもこの流れの一部で、輸入された血統が土台になり、国内でも繁殖が続いている。登録団体によって区分の呼び方は少し違うが、概ねセミロングのカラーポイントとして扱われる。

ここで一度、名前の混線をほどいておきたい。バーマンはビルマ(現在のミャンマー)にちなむ名で、短毛のバーミーズという別の品種がいる。響きが近いので、調べているうちに混ざる。毛の長さも体つきも別物で、暮らしの中での手間も違う。検索して出てくる情報を読むときは、どちらの話かを先に確かめたほうがいい。

白い手袋は、神聖さではなく規格の側にある

前足の白が手首のあたりで区切られ、左右が揃っていること。後ろ足の白がどこまで上がるか。そういった細かい点が、団体の標準で決められている。混血猫に見られる白斑は、体のどこにどれだけ出るかが個体ごとにばらつく。バーマンの手袋は、そのばらつきの中から一定の形を選び続けてきた結果だ。何世代もかけて揃えてきたもので、神様からもらった印ではない。

実際、バーマン同士の子猫でも手袋が揃わないことはある。左右で白の高さが違う、後ろ足の白が高すぎる。そういう個体をペットとして迎えるぶんには何の問題もないが、繁殖や展覧会の場では評価が分かれる。迎える側が知っておくべきなのは、手袋の美しさが健康と比例するわけではない、ということだ。片方の白が少し高いからといって、その猫が劣っているわけではない。

二本を持ち分けたまま、猫を見る

伝説と歴史を分けておくと、迎えるときの質問が変わる。この猫の手袋は左右でどう違うのか。親猫の毛の状態はどうか。登録はどの団体で、どんな区分になっているのか。寺の話は、そういう質問の代わりにはならない。

それでも、何世紀も語られてきた物語があるという事実は、悪いものではない。それだけ長く、人の暮らしのすぐそばにいたということだから。ただ、その物語は、今夜畳の上で伸びている猫の抜け毛の量も、ブラシを嫌がるかどうかも教えてくれない。教えてくれるのは、手を動かした回数のほうだ。

猫の爪痕

執筆者について

猫の爪痕

猫と暮らす年月が長くなり、爪とぎの跡や換毛期の抜け毛が部屋の景色に溶け込んでしまった人たちです。多頭飼い、引っ越し、シニア猫との暮らしをそれぞれに経験しながら、猫種ごとの性格や手入れの重さを日々の暮らしの中で見てきました。

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