血統書は何を証明し、何を証明しないのか

目次
  1. 欄があるものと、ないもの
  2. 血統書と、健康の紙は別の人が作る
  3. 同じ猫が、二枚持っていることがある
  4. 所有者の欄は、いまの飼い主とは限らない
  5. 紙を持たない猫は、下の段ではない
  6. で、この紙はいつ働くのか

血統書が証明しているのは、その猫がどの登録団体に、どの両親から生まれた子として登録されているか、という系譜の記録だけである。健康であること、性格が穏やかであること、集合住宅でも庭のある家でもうまくやれること——そういう欄は、あの紙のどこを探してもない。

血統書は何を証明し、何を証明しないのか

知り合いが、こたつの上にコピーを一枚広げた。迎える話が進んでいる猫に「血統書つき」と添えられていた、という。うちの猫はこたつの反対側で丸くなっていて、ときどき耳だけ動かしていた。冬の午後の、少し眠くなる光だった。

私が最初に見るのは、いつも紙の一番上だ。発行している団体の名前が刷ってある。ここが動物病院の名前でも、役所の印でもないことを、まず確かめる。血統書を出すのは登録団体であって、診察した獣医師ではないし、行政の窓口でもない。誰が作った紙なのかが、その紙の効き目の範囲をほぼ決めている。だから最初にそこを読む。

その下に登録番号。猫の登録名。長いカタカナで、家で呼んでいる名前とは別物だ。毛色と柄、性別、生年月日。ブリーダーの登録名、所有者の欄。そして紙の下半分は、ほとんど名前で埋まっている。父猫、母猫、その父、その母、と枝分かれして、祖父母、曾祖父母と並ぶ。

知り合いは、肩を少し前に出して聞いた。「これって、健康ってことですよね」

違う。少なくとも、この紙はそういう約束をしていない。

欄があるものと、ないもの

健康状態を書く欄がない。性格を書く欄もない。先住猫がいる家に向くか、小さな子がいる家でどうか、そういう欄もない。あるのは、誰から生まれたか、どの団体にいつ登録されたか、毛色と柄は何か、そういうことだけだ。

血統書は品質保証書ではなく記録だ、と私は説明する。記録というのは、書いていないことを保証しない。書いていないことは、書いてあることと同じ重さを持たない。当たり前に聞こえるかもしれないが、紙を前にすると、人は書いていない欄の存在を忘れる。空白は、空白のままでは主張してこない。

血統書と、健康の紙は別の人が作る

猫と暮らし始めると、紙が何枚か増える。血統書と、健康状態についての書類。この二枚は、作っている人が違う。血統書は登録団体が発行し、健康の書類は診察した獣医師が作る。同じ封筒に入って届くことがあっても、出どころは別だ。

だから、片方があることは、もう片方があることを何も示さない。血統書があるから健康、という関係はない。健康の書類があるから血がはっきりしている、という関係もない。二枚は並んでいるだけで、つながっていない。並んでいると、つい一組のものとして読んでしまう。そう読まないようにするのが、最初の練習だと思う。

同じ猫が、二枚持っていることがある

登録は団体ごとに管理されている。だから同じ猫が別の団体にも登録されていて、二枚の紙を持っていることがある。団体ごとに登録名が違うこともある。

これは、どちらかが偽物という話ではない。それぞれの団体が、それぞれの台帳に記録した、というだけのことだ。逆に言えば、一枚の紙が保証するのは、その団体の台帳にそう書いてある、という範囲を超えない。台帳が違えば、書いてあることも少しずつ違う。

所有者の欄は、いまの飼い主とは限らない

紙に所有者の欄があるから、そこに書いてある人が今の飼い主だ、と思うかもしれない。だが、この欄は名義変更の手続きをしないと書き換わらない。発行された時点で登録を持っていた人が、そのまま残っていることがある。

迎えた猫の書類を見て「前の飼い主の名前が入っている」と感じたとき、それは紙が古いのではなく、手続きが済んでいないだけかもしれない。どちらなのかは、紙を見ただけでは決められない。

紙を持たない猫は、下の段ではない

ここは、はっきり書いておきたい。保護猫や、地域で暮らしてきた猫には血統書がない。だがそれは、血統書を持つ猫より下の段にいる、という意味ではない。登録という仕組みの外にいる、というだけだ。

うちの猫には紙がない。だからといって、この猫との暮らしが何か劣るわけでも、何かが足りないわけでもない。血統書は、ある猫について親がたどれる、という一種の便利さを足す紙だ。それ以上ではない。台帳の外にいるという事実は、台帳の下にいるという意味ではない。この二つは似て聞こえるけれど、指している場所がまるで違う。

で、この紙はいつ働くのか

血統書が働く場面は、思っているより限られている。親がたどれること、毛色や柄が記録されていること、同じ団体の登録同士で血のつながりを確かめられること。将来その猫に子が生まれるとき、登録の連なりを示すのにも使う。血のつながりを人が確認したい、という場面では、この紙ははっきり役に立つ。

止まる場所も、同じくらいはっきりしている。この紙は、一緒に暮らせるかどうかを教えてくれない。病気をしにくいかどうかも書いていない。爪とぎが激しいか、夜鳴きがどのくらいか、来客にどう反応するか。そういうことは、紙ではなく、その猫を見て、聞いて、時間をかけて確かめるしかない。

知り合いは、コピーを二つに折って、こたつの端に置いた。うちの猫が起き上がって、その上を踏んで向こうへ行った。紙の上を猫が歩いても、記録は消えないし、何かが書き加わるわけでもない。ただの紙だ。ただ、誰が何のために書いたかが、はっきりしている紙ではある。

紙を見るときは、一番上から読む。誰が発行しているか。次に欄をなぞる。何が書いてあって、何が書いていないか。そこまで読んでから、その猫に触る。順番は、それでいいと思っている。

猫の爪痕

執筆者について

猫の爪痕

猫と暮らす年月が長くなり、爪とぎの跡や換毛期の抜け毛が部屋の景色に溶け込んでしまった人たちです。多頭飼い、引っ越し、シニア猫との暮らしをそれぞれに経験しながら、猫種ごとの性格や手入れの重さを日々の暮らしの中で見てきました。

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