血統書に印刷された猫種名は、その猫を分類した名前ではなく、その用紙を発行した登録団体が決めた名前だ。だから同じ一匹でも、発行元が違えば猫種名の綴りも毛色の書き方も変わるし、片方の書式を前提にもう片方を読み替えることはできない。二枚の血統書は同じ猫の二つの説明ではなく、二つの団体それぞれの説明だと考えたほうが、手元の紙の実物に近い。

知り合いの家の六畳の部屋で、私はその二枚を並べてもらった。低いテーブルの上、クリアファイルが二つ。どちらにも同じ猫の血統書が入っている。同じ腹から生まれた仔猫を、その家のブリーダーは二つの団体に登録していた。
一枚は横長で、左上に団体のマークと日本語の団体名。もう一枚は縦で、上のほうに英字の団体名が並んでいる。見出しの言語も揃っていない。
私がまず見たのは、紙の真ん中あたり、猫の名前と猫種が並ぶ欄だ。名前は同じ。生年月日も同じ。父猫と母猫の欄も同じ名前が入っている。手に持ったときの重さも、たぶん同じくらいだった。
違うのは、その隣だ。片方には「スコティッシュフォールド」、もう片方には「Scottish Fold」。同じ猫である。テーブルの下で、その猫がこちらの足の匂いを嗅いでいる。耳は折れている。
毛色の欄も揃わない。白の多い三毛の猫が、片方では「三毛」、もう片方では「白三毛」と書かれていた。白い部分がどれくらいあれば別の呼び方にするか、その境界の引き方が団体ごとに違う。
紙が違うのは、猫が違うからではない
血統書は、ブリーダーが自分の所属する団体に申請して出てくる書類だ。だから同じ猫種を扱っている二人のブリーダーがいても、それぞれ違う団体に入っていれば、迎えるときに手渡される用紙は最初から別物になる。同じ猫種名で検索して似た写真が並んでいても、書類のほうは揃わない。ここを混同すると、片方の団体の書式を基準にして、もう片方を「間違い」と見てしまう。
書式は違っても、載っている項目の種類は同じ
二枚を並べて眺めると、言語も向きも字体も違うのに、拾い出せる情報の種類はほとんど重なる。
- 個体の識別 登録番号、猫の名前、性別、生年月日
- 猫種
- 毛色と柄
- 祖先 父猫、母猫、その親、さらにその上へと遡る世代の並び
- ブリーダー名、団体名、発行の日付
遡る世代の数は団体によって違う。三代までというところもあれば、五代まで書くところもある。だから「うちの子は五代遡れる」という言い方も、その用紙を出した団体の決まりの話であって、猫そのものの何かを示しているわけではない。登録番号の桁の並びも団体ごとにばらばらで、英字の接頭辞がつくものもあれば、数字だけのものもある。
団体同士のつながりが、あとから効いてくる
団体のあいだには相互承認の枠組みがある。ある団体の登録を別の団体へ移して登録し直せる組み合わせもあれば、つながりがなくて、移行先では最初から登録し直す扱いになる組み合わせもある。子猫を迎えるときに「この団体の血統書です」と渡された一枚が、あとで別の団体の用紙に置き換えられるかどうかは、この組み合わせ次第だ。
ここは推測しないほうがいい。私も、曖昧なまま人に伝えたことはない。団体の窓口に、登録番号を添えて聞くのがいちばん早い。手元の一枚がどの団体のもので、その団体がどことつながっているか。紙を見て分かるのはそこまでで、その先は外に確認する話になる。
一匹の猫が、二つの登録番号を持つ
最初の二枚がまさにそれだった。同じ腹の仔猫を二つの団体に登録すれば、一匹の猫が二つの登録番号を持つ。キャットショーに出るとき、使う番号は主催する団体のものに変わる。そこで取ったタイトルも、団体ごとの記録として残る。猫の側には何も起きていない。番号が増えているだけだ。
同じ猫が、別の品種名で書かれることもある
品種の区分の切り方も団体が決める。耳が折れていない仔猫を、折れている仔猫と同じ品種のバリエーションとして扱う団体もあれば、別の品種として立てる団体もある。長毛の個体を独立した品種にするかどうかも同じだ。だから見た目がよく似た二匹が、それぞれ別の団体の血統書を持っていると、猫種名の欄にまったく違う言葉が入ることがある。品種の名前そのものが団体の判断で変わった例もあって、ある団体がミヌエットと呼んでいる猫が、別の団体ではナポレオンという名で登録されている、という話を聞いたことがある。
書類の違いは、猫の違いではない
登録は事務の手続きだ。紙の大きさ、欄の丁寧さ、遡れる世代の数、番号の桁数。それらは、その猫が健康かどうか、人懐こいかどうか、毎日の暮らしで楽しいかどうかとは何も関係がない。私がその部屋で聞いていたのは、テーブルの下から上がってくる喉の音で、用紙に書かれた言葉ではなかった。
血統書は、その猫がどこから来たのかを辿るための手がかりだ。二枚並べたときに見えてくるのは、団体の数だけ書き方があるという事実であって、猫の側の違いではない。ファイルを閉じて返すと、猫は新しい匂いを嗅ぎに来て、それで終わりだった。