血統書でいちばん見落とされる猫自身の欄

目次
  1. 紙は三段に切れている
  2. 中段と下段は「前の世代の登録記録」
  3. ブリーダー欄と所有者欄は別の欄
  4. 血統書とスタンダードは別の書類
  5. 指を置いて、声に出す

血統書は、祖先の列から読むものではない。まずいちばん上にある「その猫自身の欄」を指でなぞり、登録番号・品種名・毛色と柄・生年月日がそれぞれ何を指しているのかを、一つずつ言えるようにする。それが済んでから中段の両親、下段の祖父母以降へ下りていく。順番を逆にすると、紙面の情報量に押されて、いちばん大事な数行を素通りしたまま読み終える。

血統書でいちばん見落とされる猫自身の欄

私がはじめて血統書を広げたのは、猫を迎えて数日たった夜だった。A4を二つに折った紙をクリアファイルから抜くと、静電気で指に張りつく。ダイニングテーブルに置き、蛍光灯の下で上から順に目を落とした。膝の上では、当の猫が丸くなっている。

最初の数秒で手が止まった。紙のいちばん上に印刷されている名前が、家で呼んでいる名前と違う。考えてみれば当たり前で、そこに書いてあるのは登録名であって、暮らしの呼び名ではない。だがその一行を眺めているうちに、自分の読み方がずれていることに気づいた。目はすでに、下のほう、ぎっしり詰まった祖先の欄へ向かっていた。いちばん上にある、その猫自身の欄は、まだ読んでいなかったのだ。

紙は三段に切れている

書式は団体ごとに違う。それでも多くの血統書は、罫線で大きく三段に分かれている。上段がその猫自身、中段が両親、下段が祖父母から先の祖先だ。まず指でその区切りをなぞって、段の数を数える。どこに何が入っているかが、それだけで見当つく。

読む順番は固定する。上段、中段、下段。左から右へではなく、上から下へ。これを守るだけで、紙は急に読みやすくなる。逆に、いきなり下段に飛ぶと、埋まっている段の多さだけが目に入って、上段の数行が背景に沈む。

上段の登録番号

登録番号は、発行した団体が登録のたびに割り振る番号だ。番号そのものに、その猫の良し悪しや順位の情報は入っていない。番号から読み取れるのは、どの団体が、いつごろ発行したか、その程度である。若い番号だから良い、という読み方は成立しない。

上段の品種名

品種名は、その団体が決めた標準の名称で書かれる。だから日本の暮らしで使っている呼び名と、紙の上の表記が一致しないことがよくある。略称や愛称で親しまれている品種ほど、紙面の正式名との差が大きい。手元の紙に書かれた語を、そのまま団体の言葉として受け取るのが正しい。

上段の毛色と柄

毛色と柄は、団体の用語かコードで書かれる。同じ見た目のトラ柄でも、団体が違えば別のラベルが付く。毛色の呼び方は団体ごとの約束事であって、猫の見た目をそのまま写したものではない。だから他人の血統書と横に並べても、同じ言葉が同じ意味とは限らない。生年月日と性別は、ここでは誤解の余地がない。

中段と下段は「前の世代の登録記録」

両親の欄は、その親自身の登録記録がそのまま転記されている。父の欄、母の欄にそれぞれ登録番号があれば、その親も同じ団体に登録された個体だということになる。

番号のない親がいる場合、そこで血統の線は止まる。空欄は「問題がある」という意味ではない。その団体に登録されていない、というだけの話だ。登録のない猫から生まれた子は、そこから先の記録を持たない。線が途切れていることと、猫の質は別の話である。

下段の祖父母、曾祖父母の欄は、その猫がどんな猫かではなく、どこから来たかの記録になる。段が埋まっているほど記録が連続している、という事実が分かる。ただし、それ以上の意味は紙面には書かれていない。埋まっている段数を数えるのは読み方の一部であって、結論ではない。

ブリーダー欄と所有者欄は別の欄

血統書には、その猫を繁殖させた人の欄と、登録を保持していた人の欄が、それぞれ別に用意されている。後者は発行の時点で名義を持っていた人だ。だから手元に届いた紙のその欄が、いま一緒に暮らしている人と同じとは限らない。名義は時間とともに動く。紙は発行時点を写した写真だと思って読むほうが、混乱が少ない。

血統書とスタンダードは別の書類

血統書は、一匹の個体の記録である。品種がどうあるべきかを定義したスタンダード(品種標準)は、同じ団体が出している別の文書だ。血統書の中にスタンダードの内容は書かれていない。だから血統書があることは、その猫がスタンダードにかなっているという証明にはならない。この二つを混ぜて読むと、紙の意味を取り違える。

指を置いて、声に出す

読み方の練習は単純だ。上段のいちばん左に指を置き、これは登録番号、これは品種名、これは毛色のコード、と声に出す。詰まったら、そこはまだ読めていない。

団体によって書式も用語も違うので、ここに書いたのは一般的な形でしかない。手元の紙の項目名を先に読むこと。そのうえで、上から下へ戻ってくる。

血統書は、猫の評価を書いた紙ではない。一匹がどこから来たのかを、団体の言葉で記録した紙だ。読み終えたときに手元に残るのは点数ではなく、来歴の輪郭になる。そして、いちばん見落とされやすいのは、いちばん上に書いてある。祖先の欄の段数に目を奪われる前に、その猫自身の数行を指でなぞり、言葉にできるようにしておく。それができてはじめて、下の段が読めるようになる。

猫の爪痕

執筆者について

猫の爪痕

猫と暮らす年月が長くなり、爪とぎの跡や換毛期の抜け毛が部屋の景色に溶け込んでしまった人たちです。多頭飼い、引っ越し、シニア猫との暮らしをそれぞれに経験しながら、猫種ごとの性格や手入れの重さを日々の暮らしの中で見てきました。

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