キャリーを部屋に出しておくと、なぜ猫は入るようになるのか

目次
  1. 押し入れから出すのをやめる
  2. 段階は、食べる位置を動かすことで刻む
  3. 入口で後ろに下がったとき、読み取ることは二つある
  4. 終わり方は、うまくいった日ではなく平気な日に
  5. キャリーが予測する行き先を増やす
  6. それでも、全部が消えるわけではない

キャリーを部屋に出しておくと猫が入るようになるのは、キャリーが「たまに現れる、捕まえられる箱」から「いつもそこにある箱」に変わるからだ。猫は新しい箱を無視できない生き物なので、危険な合図さえ消えれば、あとは自分から確かめに入る。ただし、置きっぱなしにするだけで済む猫は少ない。差がつくのは、嗅ぐ、横で食べる、乗る、中で数秒という段階の刻み方と、入口で体が後ろに下がったときに、段階を戻すのか、入り方の向きを変えるのかを見分けるところだ。

キャリーを部屋に出しておくと、なぜ猫は入るようになるのか

その見分けがつくまで、私はずいぶん遠回りをした。

うちでは、キャリーは六畳の隅、本棚の横に置きっぱなしにしてある。ここに落ち着くまでに、まず収納をやめた。それまでは、病院の前日の夜に押し入れから出すのが決まりだった。ふすまを開ける音、プラスチックの底が床に当たる音、ファスナー、金具。キャリーが床に着く前に、猫はベッドの下に消えていた。あれは訓練ではなく、こちらが毎回同じ合図を鳴らしていただけだった。

押し入れから出すのをやめる

出しっぱなしにした初日、猫は部屋の反対側から動かなかった。二日目、通り道で足が止まり、においを嗅いだ。三日目、頬を角にこすりつけた。順番は、段ボール箱を転がしておいたときと同じだった。嗅ぐ、こする、体重を預ける。猫が箱にやることを、キャリーにもやらせてやればいい。

呼び寄せてはいけない。おやつを放り込んで釣るのもよくない。それはこちらの都合で、猫からすれば「やはり何かある」になる。置き場所は、猫が一日に何度も通る場所にする。押し入れの中や、猫が普段入らない部屋の隅では意味が薄い。狭い部屋なら、キャリーは一脚の家具として床面積を取る。それだけの価値はある。

扉は外すか、開いたまま固定する。入口の扉がぶら下がって揺れていると、猫が鼻先で押した瞬間にパタンと閉まる。あれは罠に近い。上開きのものは上ぶたを外して、浅いトレー兼ベッドにしてしまう。中に入れるのは、洗ったばかりの新しいタオルより、その部屋で干してあったタオルのほうがいい。

病院から帰った日は、床に戻す前に底とタオルを洗って風を通す。キャリーには消毒のにおいと、猫自身が緊張したときのにおいが残る。そのまま戻すと、せっかくの「ただの箱」が数日で「あの日の箱」に戻ってしまう。

段階は、食べる位置を動かすことで刻む

扉を外した状態で、まず床に数粒。入口の外側だ。次に、入口の敷居の上。次に、底の手前、首だけ入れて食べられる位置。体は外に出ていていい。顔だけ入れて食べる、を何日かやって、それから全身が入る。

食べている最中に扉を閉めるのは、そのあとの段階だ。ここで一度でも「中に入ると閉じ込められる」を覚えさせると、猫は手前で止まるようになる。戻ってくるのに、閉める練習の何倍もかかる。

閉める練習に入ったら、数秒だけ。計るのは時計ではなく、餌の量だ。食べ終わって出口を探し始める前に開ける。開けたら、猫が自分で歩いて出てくるのを待つ。ここでキャリーを傾けて出したり、抱き出したり、追い出したりしない。最後の記憶が「放り出された」になると、今消したはずの捕まえられる感じが戻る。追い出せば、また捕まえるところからやり直しになる。

入口で後ろに下がったとき、読み取ることは二つある

前足が底に乗り、首を伸ばして奥を見回し、しばらくして後ろ足が半歩下がる。この後退と、キャリーから体一つ分離れた場所で伏せ、耳を後ろに倒して横へ滑っていく後退は、別のものだ。

前から押される形になっていないか

一つめは、入り方の向きの問題だ。猫は先の見えないトンネルに頭から入るのを嫌う。前から頭を押し込む形になると、なおさら入らない。上ぶたが外せるキャリーなら、上からそっと下ろす。前から押されるより、上から下ろされるほうを受け入れる猫は多い。上ぶたを外したまま浅いトレーとして置いておくだけでもいい。低い縁を越えて、上から入って、そのまま丸くなる。

段階が大きすぎたときの戻し方

二つめは、段階そのものが大きすぎる場合だ。体ごと引いて、隠れる、逃げる、という反応なら、一つ前の段階に戻して、数日そこに留まる。一度試して駄目だったから翌日もう一度、というのは私が何度もやった失敗だ。猫は昨日の失敗を覚えているというより、こちらが焦れているのを読んでいる。同じ段階を繰り返しても、うまくはいかない。戻すべきは段階で、気合いではない。

終わり方は、うまくいった日ではなく平気な日に

区切りは、猫がまだ平気なうちに切る。これが一番難しい。今日はうまくいったからもう一回、と言いたくなる。その一回が、たいてい最後の一回になる。こちらが立ち上がって台所に行く。猫は中に残っていてもいいし、出て行ってもいい。その状態で終われたら、次はもっと軽い。

キャリーが予測する行き先を増やす

キャリーが予測するのは病院だけではない、という話も書いておく。抱えて建物の周りを一周して戻ってくるだけでいい。ベランダで洗濯物をたたんでいるあいだ、足元に置いておく。中に入っているかどうかは関係ない。大事なのは、キャリーの予測が「下まで降りて、外に出て、また戻ってきた。何もなかった」に書き換わることだ。

爪切りもブラシも理屈は同じで、使うときだけ出てくる道具は合図になる。ブラシを床に置きっぱなしにしておくと、猫のほうから擦り寄ってくる。道具が家具になれば、合図は消える。

それでも、全部が消えるわけではない

どれだけ置きっぱなしにしても、病院で完全に落ち着く猫ばかりではない。うちの一匹は、診察台の上では今も固まる。それでも、キャリーを出すところから捕まえるまでの十分間は消えた。目指しているのは、嫌がらない猫にすることではなく、こちらの都合で猫を追い回さなくて済む状態だと思っている。

今、そのキャリーは本棚の横で、タオルが一枚入ったまま、ときどき寝床になっている。病院の日は、そのまま閉じて持ち上げるだけだ。合図は鳴らない。

猫の爪痕

執筆者について

猫の爪痕

猫と暮らす年月が長くなり、爪とぎの跡や換毛期の抜け毛が部屋の景色に溶け込んでしまった人たちです。多頭飼い、引っ越し、シニア猫との暮らしをそれぞれに経験しながら、猫種ごとの性格や手入れの重さを日々の暮らしの中で見てきました。

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