毛玉は、ブラシの当て方が悪いからできるのではない。抜けたアンダーコートが被毛の外へ抜け出せず、まだ皮膚につながっている毛に絡みつき、その絡まりを核にして次の抜け毛が集まって固まった結果である。だから最初にできる場所もほぼ決まっている。耳の後ろ、脇の下、お腹、後ろ脚の付け根、尻尾の根元。毛が折れ重なり、体を動かすたびにこすれ合うところから始まる。長毛種やダブルコートの猫が毛玉だらけになり、短毛のシングルコートがほとんどならないのは、手入れの差ではなく、抜け毛が外へ出られる構造かどうかの違いだ。

膝の上で猫が丸くなり、テレビの音を小さくしたころ。私は決まって、その子の耳の後ろに人差し指を差し入れる。耳の付け根で毛は流れの向きを変え、襟のように折り返している。指の腹で、毛を逆立てないように、その折り返しの底をなぞっていく。たいていは何もない。毛がするりと指の間を抜けていくだけだ。
ところが、ある日、指が止まる。米粒ほどの、妙に密度の高い点がある。つまむと、皮膚ごとではなく、その点だけがわずかに動く。爪は立てない。指の腹で二つに割るように押し広げると、まだほぐれる。これが毛玉の最初の姿だ。この段階で見つかった日は、その先の作業はほとんどない。
上から撫でただけでは、毛玉は見つからない
毎晩同じ手順で触っていると、指のほうが先に覚える。背中を撫でたときのなめらかさと、コームの歯が皮膚に当たるまで沈んだときの抵抗は、まったく別の情報だ。
見た目はいつもきれいだ。窓から入る光が毛の流れに沿って当たり、上から見るかぎり、どこにも滞りはない。それでも指を沈めると、半分ほどで止まる場所がある。表面の毛は整ったまま、皮膚の近くだけで何かが起きている。だから私は、撫でた感触だけで「今日は大丈夫」とは判断しない。
基準にしているのは、コームの歯先が皮膚に触れたかどうか、それだけだ。肌に当たって、猫が嫌がらない程度の力で通り抜けたら、そこは今日のところ問題なし。途中で引っかかり、同じ場所を何度も往復するなら、そこで何かが始まっている。
毛玉ができる仕組みは、抜け毛の出口の問題だ
猫の被毛は層になっている。内側のアンダーコートは短く、柔らかく、密度が高い。外側のオーバーコートは長く、体を覆っている。抜けるとき、アンダーコートはこの外側の層の間を通って、外へ出なければならない。
短毛のシングルコートなら、抜けた毛はそのまま落ちる。落ちる先に、引っかかってくれるものがほとんどない。だから同じ場所に同じ塊が育たない。抜け毛は床に落ち、掃除機に吸われる。それで終わりだ。
長毛やダブルコートは違う。上毛が長く、本数も多く、互いに絡みやすい。抜けたアンダーコートが上毛に引っかかると、それが核になる。次に抜けた毛がそこに集まり、また次が集まる。外側からではなく、皮膚の近くで、少しずつ固まっていく。だから表面は平らなままで、内側だけが板のように変わっていく。ブラシをかけた直後にきれいに見えても、翌朝には耳の後ろに同じ点が戻っているのは、これが理由だ。
始まる場所は、体の折り目と決まっている
耳の後ろ。耳の付け根で毛の流れが折り返し、そこだけ方向が変わる。
脇の下。前脚を動かすたびに、皮膚と毛がこすれ合う。歩くたびに、小さな摩擦が何度も繰り返される場所だ。
お腹。寝ているときに下になって、体重と床が毛を押さえる。毛が寝たまま戻りにくい。
後ろ脚の付け根。座るときに折れ重なる。立ち上がるときに、折り目が戻る。
尻尾の根元。尾の付け根で毛が渦を巻き、流れが一点に集まる。
どれも、毛が折れるか、こすれるか、押さえつけられる場所だ。手入れの上手い下手より、体の形のほうが先に決めている。だから順番も自然に決まる。耳の後ろから始めて、首、背中、脇、お腹、後ろ脚、尻尾の根元。この順番で毎回同じように触ると、前回なかった点に気づきやすい。
冬と夏で、同じ猫でも違う
冬、暖房の効いた部屋は乾く。アンダーコートの一本一本が静電気で立ち、上毛に絡みやすくなる。抜け毛の量そのものは減っている時期なのに、一度できた核が乾いて締まり、指に硬く当たる。
夏は逆だ。湿度が高いとアンダーコートが寝て、皮膚から浮いてこない。抜けるべき毛が抜けきらずに層の中に残り、皮膚の近くで詰まる。コームを入れると、表面はするりと通るのに、途中から急に重くなる。
同じ猫でも、冬は表面のぱさつきを、夏は皮膚の近くの詰まりを見る。見る場所が季節で変わる、という感覚だ。
指が覚える距離
米粒の段階なら、指で割って、コームで梳かせば戻る。問題は、そこから先に進んでしまったときだ。
固まって板のようになった毛は、日常のコームでは解けない。歯を入れても、块ごと押し戻されるだけになる。この段階は毛を扱う専門の作業として切り分けられていて、日々の手入れの延長では扱わない。だから私が毎晩確認しているのは、板になったかどうかではなく、米粒のうちに触れているかどうかになる。
コームの歯先が皮膚に当たる感覚を、指の腹が覚えている。その距離を保ったまま、毛の流れに沿って一度だけ通す。往復しない。引っかかったら、そこで止めて、指で確かめる。これ以上の手順はない。
頻度は、見た目ではなく毛質で決める
長毛のダブルコートなら、毎日。短毛でもダブルコートなら、換毛期を中心に、それ以外は数日に一度。シングルコートなら、指で耳の後ろを確認するだけで足りる日がほとんどだ。頻度の目安は、表面がどう見えるかではなく、皮膚まで歯が届くかどうかで決まる。きれいに見えている日ほど、指を沈めて確かめる価値がある。
毛玉は、手入れが下手だという通知ではない。抜けた毛が行き場を失った、というただの結果だ。だから対策も、気合いではなく順番になる。耳の後ろの、米粒ほどの点に気づけるかどうか。長毛と短毛の違いは、そこで効いてくる。