長毛種と短毛種の抜け毛の違いは、量よりも「出方」に現れる。換毛期の骨格はどちらも同じで、重い山が春、軽い山が秋。ただし短毛のダブルコートは短く硬い毛を布の繊維に織り込ませ、長毛は長い毛を房や毛玉にして床に転がす。だから床だけを見ると、長毛の家のほうがきれいに見えることさえある。梅雨の湿気は長毛を寝かせて絡ませ、暖房で乾いた冬の室内は静電気で毛を宙に浮かせる。そして、それぞれの山が始まる前に多めにコームを通す一度があるかどうかで、その季節に室内へ出る毛の量ははっきり変わる。

2月の終わり、コームの歯に乗る毛の質が変わる
私は毎年2月の終わりに同じことをする。晴れた午後、猫を膝に乗せて金属のコームを背中に一度だけ走らせる。真冬の間はほとんど何も残らなかったコームの歯に、その週から急に毛が引っかかり始める。しかも取れる毛の質が変わる。短くて細い冬の毛ではなく、少し長くて、指でつまむと束になる毛になる。
春の換毛期は、明るい時間の長さが変わって訪れる。暖かくなったから始まるわけではない。だから日当たりのいい窓辺を長く使う猫と、夜も電気のついた部屋で過ごす猫では、山の立ち上がり方が違う。後者のほうがなだらかで、いつ始まっていつ終わったのか分かりにくい。うちの長毛は窓辺が定位置なので山がはっきりしているが、短毛のほうは私の生活時間に合わせて寝ているせいか、春の立ち上がりが毎年少しずつ違う。
短毛の毛は、床に落ちる前に布へ入る
春の山を過ぎたあたりで、いちばん分かりやすい違いが出る。
長毛の毛は長い。抜けると数本がまとまり、カーテンの裾や家具の脚のあたりに小さな塊として転がる。見つけやすいし、拾いやすい。一方、短毛の毛は短くて硬い。床に落ちる前にソファの布、クッションの織り目、絨毯の奥へ入っていく。床をいくら見ても少ないのに、座った拍子にズボンが毛だらけになる。
ここで一度つまずいた。短毛のほうが抜けないのだと思っていた時期がある。実際には、抱えている毛の量はそれほど変わらない。床という一つの面だけを見ていたから、見えていなかっただけだった。被毛が密なぶん、抜けた毛が表面に残らず、布や畳の目の中に納まってしまう。長毛は密でも、毛が長いので塊として外へ出てくる。見えるかどうかは、抜ける量ではなく毛の行き先の話だ。
梅雨から夏、長毛は寝て、短毛は残る
6月に入ると、長毛の手入れの意味が変わる。湿気で毛が寝て、根元のほうで絡みやすくなる。この時期にコームを上から何度も通しても、表面だけを滑っていく。私は毛を分けるように、根元から起き上がらせる向きで通す。目の粗いコームで大きく分けてから、細かいほうで整える。長毛の換毛期は春と秋だが、梅雨は別枠だと思っている。抜けるというより、絡んで動かなくなる季節だ。
短毛はこの時期、抜けるというより刺さる。素足でフローリングを歩くとき、毛が足の裏に残る感覚がある。夏はこの毛が布から抜けにくい。秋になって空気が乾くと、今度は払えば落ちるようになる。同じ毛が、湿っているか乾いているかで挙動を変える。
11月の山は、音がしない
秋の換毛期は軽い。春のように「抜けている」と分かる規模ではなく、気づくと部屋の隅の毛が少し増えている、という程度のことが多い。夏毛から冬毛への切り替えは、春ほど劇的ではないからだ。
だから秋は見落としやすい。見落とすと、冬の間ずっと古い毛を抱えたままになる。私は11月の初めに、春と同じ手順をもう一度だけやる。取れる量は春の半分もない。それでも、これをやった年とやらなかった年では、12月の部屋の様子が違う。
暖房の効いた部屋で、毛は宙に浮く
冬は抜け毛の季節ではない。それなのに毛が目立つのは、空気が乾いているからだ。暖房をつけた部屋では、床に落ちたはずの毛が静電気で立ち、歩くたびにふわっと浮く。壁やカーテンに貼りついて、そこから落ちてこない。
長毛はこの浮き方が大きい。軽い毛が長いぶん、宙に長く留まる。短毛は浮いてもすぐ落ちるが、落ちた先の布に刺さったままになる。冬に粘着クリーナーを何度も往復させるのは、この季節の毛が床を転がらず、布の中で止まっているからだ。
そして冬に取れる毛は、新しい毛ではない。秋に抜けきらなかった古い毛だ。だから冬の手入れは、私の中では換毛期の後始末という位置づけになっている。
同じ猫種でも、畳かフローリングかで話が変わる
ここまでの話は、床と布の種類でかなり変わる。
畳は毛が目に入り込む。一度入ると、掃くだけでは出てこない。フローリングは逆で、毛は転がり、部屋の隅や家具の下に溜まる。ウールのソファは短毛を抱え込み、綿のカバーは払えば落ちる。同じ短毛種を飼っている家でも、リビングが畳かフローリングか、ソファがウールか合皮かで、「うちはそんなに抜けない」と「うちはすごい」の両方が普通に成立する。他人の家の話と比べても、あまり意味がない理由がここにある。
山の手前で、一度だけ多めに通す
私が実際にやっているのは、これだけだ。
春は2月の後半、秋は10月の初め。抜け始める前に、ふだんより長めの時間をかけてコームを通す。抜け始めてからでは遅い。抜ける予定の毛は、すでに部屋のどこかに散っている。手前で取っておくと、山の時期に室内へ出る毛の量が減る。何年か続けて、毎回同じ結果になった。
量そのものは、猫によって違う。被毛の密度も、年齢も、部屋の明るさも違う。だから「これで抜け毛がなくなった」という話にはならない。減る、というだけだ。それでも、春と秋のそれぞれ手前で一度だけ多めに通す習慣は、その後の2か月の床の様子を変える。