1Kの賃貸で猫と暮らすとき、アレルゲンがたまる場所は部屋じゅうに均等ではない。先に濃くなるのは、人が寝る場所の柔らかいもの(布団、枕、座面)と、猫の寝床、爪とぎ、キャットタワーの布の部分で、そこへ窓と換気扇を結ぶ空気の道が重なったところが、いちばん厚くなる。順番をつけるなら床面積、空気の流れ、柔らかい物の位置。この三つで、同じ広さの1Kでもたまり方はかなり違ってくる。
私が部屋に入って最初に見るのは、間取りでも築年数でもなく、窓と換気扇の位置だ。六畳に小さなキッチンが付いただけの部屋。窓はベランダ側に一枚、換気扇は浴室に一つ。昼過ぎにカーテンを開けて、部屋の真ん中に立って、少し首をかしげて壁を見る。布団を敷いたときに空気が通るあたり、腰より少し上の高さに、細かい毛が横一文字に貼りついている。あれが、その部屋の空気の道である。
窓と換気扇のあいだに線を引く
1Kはおおむね二十平米前後、六畳か七畳に台所が付いた形が多い。人が一人、猫が一匹。その体積はもう決まってしまっている。二匹になれば、同じ空気を二匹分で使うことになる。広さは変えられない。変えられるのは配置だ。
そして1Kは箱ではなく通り道だ、というのが、しばらく住んでいちばん役に立った見方だった。空気は入ってくるところと、出ていくところが決まっている。入り口は窓の上の小さなスリットや壁の給気口、出口は浴室の換気扇やキッチンのレンジフード。だから空気は窓際から入って部屋を横切り、ドアの下の隙間をくぐって廊下へ出て、浴室のガラリから吸われていく。
引っ越した初日に、火を消した線香を持って部屋の四隅を回ったことがある。煙は天井近くを這って、迷わずドアのほうへ流れていった。窓を閉めると、煙はほとんど動かず、その場で薄くなっていくだけだった。動かないということは、出ていかないということでもある。
新しい建物だと、窓の上や壁に小さな給気口が付いていて、浴室やキッチンの排気と組でゆっくり空気を動かしている部屋が多い。回っているかどうかは、給気口の前にティッシュをかざすと分かる。ぺたりと貼りつくようなら動いている。止まっている部屋もあるので、一度は確かめたほうがいい。
空気清浄機を置くなら、この線の上に置く。窓際に置いても、その窓から空気が入ってこなければ、機械は部屋の中央の空気をただ回しているだけになる。
毛が壁に貼りつく高さ
猫の背の高さから床にかけては、毛と爪とぎの粉がたまる。それより上の高いところには、もっと細かいものが積もる。押入れの上、冷蔵庫の上、カーテンレールの上。指でなぞると灰色の線がつく。トイレの砂の細かい粒は軽いので、舞い上がって洗面所の棚や洗濯機の上に白く膜をつくる。あれは毎日落ちてきて、毎日積もっているのに、目に入らない高さにあるので忘れられる。
掃除の話をしたいのではない。たまる場所には層があって、層ごとに動かす頻度が違う、というだけのことだ。床は毎日、壁の帯は週に一度、高いところは月に一度。頻度を分けておくと、全部を毎日やらなくて済む。
床がカーペットの部屋、フローリングの部屋
フローリングやクッションフロアなら、毛は表面に乗っているだけだ。乾いたぞうきんで拭けば、そのぶんだけ部屋から出ていく。カーペットは違う。繊維の間に落ちて、歩くたび、猫が走るたびに戻ってくる。だから「掃除したのに、翌朝またざらつく」ということが起きる。掃除が足りないのではなく、床が溜め場になっている。
賃貸では、そのカーペットが備え付けで剥がせないことが多い。剥がせないなら、問いは「カーペットかどうか」ではなく「カーペットの面積がどこまであって、寝る場所とどう重なっているか」になる。六畳ぜんぶがカーペットなら、部屋の床全体が溜め場だ。中央だけカーペットで、まわりが木という部屋なら、溜め場には境界がある。境界があれば、掃除の順番が決められる。まず外側から内側へ。境界の外に落ちたものは、その日のうちに持ち出せる。
猫のトイレの前に敷いたマットは、砂を拾うためのものだが、同時に細かい粒をためる場所でもある。洗う前提で選ぶか、敷かないか。キッチンの足元のマットも同じことが言える。
動かせるのは、ベッドとタワーとトイレの三つ
壁も床も窓も動かせない。ドアの位置も動かせない。動かせるのは家具で、そのうち猫のものが三つ。それに布団の向きとカーテンの長さが加わる。選択肢は思っているより少ない。少ないから、一つひとつの位置が効く。
トイレは排気に近い側へ。細かい砂ぼこりは、出ていく空気に乗ったほうがいい。枕もとの真横だけは避ける。浴室に置ける部屋なら話は早いが、浴室が狭い、洗面所しかないという部屋もある。その場合は、ドアの下の隙間から廊下へ抜ける流れの途中に置かないことだけ守る。
タワーは空気の道の外側の角へ。猫は上の台で寝る。道の上に置くと、落ちた毛が寝具のほうへ運ばれる。角に置けば、落ちたものが角に集まる。集まる場所を決める、というのがこの作業の正体だ。
ベッドは、置いても選ばれないことがある。うちでは、買った寝床より、洗える座布団をタワーの上に敷いたほうが使われた。猫が選ぶのは場所ではなく高さと柔らかさなので、選ばれそうな柔らかいものを、洗えるものに替えておく。たぶん、これがいちばん現実的な対策になる。
布団は、敷きっぱなしにすると部屋でいちばん大きい柔らかいものになる。畳んで押入れにしまうと、そのぶん溜め場が減る。ただし毎日続くかという話で、私も何度か三日で崩れた。崩れる前提で、これだけは続けると一つ決めておくほうがいい。畳むのをやめるなら、敷く前に床をから拭きするだけでも順番は変わる。
寝ているあいだの空気
夜、ドアを閉めて、浴室の換気扇だけが回っている。空気は天井近くを通ってドアの下へ抜ける。人は床から五十センチほどのところで寝ていて、猫はその上を歩き、夜中に走る。昼に落ちたものが、もう一度舞う。
だから、寝る前の一時間の使い方が効く。布団を畳む、床をから拭きする、カーテンの裾を軽く払う。舞ったものが出ていく時間を、寝る前に作る。朝ではなく夜。これは部屋の広さでは解決しない話で、順番の問題だ。
動かせないものから決める
窓が開けられるか、網戸があるか、換気を止めずに運用する決まりかどうか、ベランダに布団を干せるか。ここは建物ごとに違う。違うのだから、一般論で先に決めず、その部屋の条件を先に確かめる。確かめてから、残った選択肢のなかで三つを置く。条件が厳しい部屋ほど、置き場所の効き目は大きい。
1Kで猫と暮らすというのは、広さの勝負ではなく、たまる場所をどこに置くかを決める作業だ。全部は動かせない。動かせないものが多い部屋ほど、動かせる三つの位置が効いてくる。朝、枕もとを手で払ったときの重さが、その部屋の答えになる。