猫の換毛期は年2回、春と秋に山が来る。日照時間の伸び縮みに体が反応して冬毛と夏毛を入れ替えるもので、気温の上下が直接の引き金になっているわけではない。室内だけで暮らす猫は外の寒暖をほとんど浴びないため、その山はなだらかになり、抜け毛は一年を通して少しずつ出続ける。そして室内で抜け毛とアレルゲンがどれだけ増えるかを左右するのは、換毛の量そのものより、抜けた毛とフケが空気に乗って漂い続けるのか、床やカーテンに落ちて残るのかという分かれ方だ。この分かれ方を決めているのは、窓をいつ開け、暖房をいつからつけるかという、地域ごとにまったく違う住まい方になる。

カーテンの裾を摘まんだときの手応え
2月の朝、リビングのカーテンを開けようとして裾をつまむと、指の腹にじゃりっとした感触が残る。窓は一晩中閉じたままで、ファンヒーターの音がまだ鳴っている。ソファの肘掛けに黒いニットを掛けっぱなしにしていたら、それが一番よく分かる。毛は均一に付くのではなく、縫い目に沿って筋になって刺さっている。舞っているというより、貼り付いている。
8月に同じカーテンを触ると、手応えはもっと鈍い。毛は裾ではなく床の隅やラグの奥に集まっていて、掃除機をかけても繊維に絡んで残る。同じ猫の毛が、同じ部屋で、季節によって違う場所に落ち着いている。私はこれを何年か眺めているうちに、換毛期という言葉が指す範囲より、部屋の空気が毛とフケをどこへ運ぶかのほうが、暮らしの中ではずっと大きな割合を占めると思うようになった。
春の抜け毛は、窓を開けた瞬間から逃げていく
3月から5月。日の長さが変わり始めた頃から、猫の体の上で毛が浮いてくる。撫でると手のひらに残る量が増え、毛づくろいのあとに口の周りへ毛が付いていることもある。
春の換毛は量こそ多いが、室内に残る量は意外と少ない。窓を開ける日が増えるからだ。開いた窓のそばでは空気が動き、軽い毛はそのまま外へ流れる。だからこの時期は、掃除機をかける回数を増やすより、ブラッシングで先に取ってしまうほうが効く。抜ける前に取れば、床に落ちる分が減る。
ただし、春は閉める日も多い。雨の日、風の強い日、黄砂の飛ぶ日。そういう日にブラッシングを室内で済ませると、取ったはずの毛が床に散って、結局は室内に残る。うちでは換毛期のブラッシングだけは窓際でやると決めている。
梅雨から真夏、毛は舞わずに張り付く
6月の梅雨入りから7月の梅雨明け、そして8月。ここで部屋の様子が一度変わる。
湿度が高いと、軽い粒子は空気の中に長く留まれない。早く落ちる。窓を開けていても、しっとりした床やラグに毛が絡みつき、ほうきでは集まらない。そして梅雨が明ければエアコンの季節になり、今度は窓を閉め切る。春に外へ出ていた分の出口が、ここで塞がる。
エアコンのフィルターを見ると、その家の猫の毛がどれだけ室内を回っているかが分かる。フィルターは空気の通り道だから、部屋の空気に乗っていた毛とフケがそこで止まる。梅雨明け直後に一度開けてみると、春の換毛で出たはずの分がまとめて出てくることがある。外へ逃げたはずの毛の一部は、実は部屋を一周してフィルターに着いていた、ということだ。
秋の二度目は、閉め始める季節と重なる
9月末から11月。夏毛から冬毛への入れ替えが始まる。量は春とそう変わらない。
違うのは、生活の向きだ。春は窓を開ける方向に動くが、秋は閉める方向に動く。10月の昼はまだ開けられる。朝晩は閉める。11月になると暖房の試運転が始まり、開ける日と閉める日が混ざる。この時期は、室内に残る毛の量が日ごとに変わる。昨日は外へ出ていた毛が、今日は床に残っている。換毛期そのものより、その日の窓の状態のほうが結果を決めている。
暖房が入ると、フケは外へ出られなくなる
12月から2月。室内の負荷はここで最大になる。
暖房は空気を乾かす。乾いた空気の中では、軽い粒子は舞いやすい。毛はまだ目で見えるが、フケはもっと細かい。ブラシでも掃除機のヘッドでも取りきれない大きさで、暖房の上昇気流に乗って部屋を回り、静電気でカーテンやソファの布地、壁際に張り付く。窓は閉まっているから、外へ出る出口がない。
アレルゲンとして知られるタンパク質は、このフケや唾液に付いて運ばれる。毛はそれを乗せて移動する側で、量そのものより、運ばれた先が部屋の中か外かということが効いてくる。冬は、そのほとんどが部屋の中に残る。
だから冬は「取る」より「出さない」を考える季節になる。暖房をつけたまま窓を少し開ける、換気扇を回す、加湿して粒子を落ちやすくする。どれも毛とフケの行き先を変えるだけのことで、部屋の条件の話だ。
同じ日本でも、ピークの月は札幌と福岡で違う
換毛期が年2回なのは全国共通だが、室内の負荷がいつ最大になるかは、猫の体より住まい方で決まる。同じ「冬」でも、窓が閉まっている期間の長さがまるで違うからだ。
札幌: 10月に窓が閉じ、11月から長い冬
北海道に梅雨はない。夏に窓を開けていられる期間は短く、10月には朝晩の窓が閉まる。暖房の立ち上がりも早く、11月には一日中ついている家が多い。すると室内のピークは11月から3月まで、5か月近く続く。春の換毛が来る頃にもまだ暖房が入っていることが多く、春に抜けた毛が外へ出られないまま、そのままエアコンの季節へ持ち越される。
関東: 12月から2月、そして6月にもう一度
東京あたりでは、11月までは晴れた昼に窓を開けられる。暖房が本格化するのは12月で、1月から2月が閉め切りと乾燥のピークになる。ここが室内負荷の山だ。そして梅雨の6月、雨で窓を閉め、エアコンを入れ始める時期にもう一度小さな山が来る。年によっては、梅雨明け後の7月後半から8月の閉め切りが、2月に次ぐ量になることもある。
福岡: 梅雨と真夏に一度、冬にもう一度
九州は梅雨入りが早く、雨の量も多い。6月から7月にかけて窓を閉める日が続き、そのまま真夏の閉め切りに入る。冬の暖房期間は関東より短く、12月でも晴れた日に窓を開けられる日がある。そのぶん冬の室内負荷は関東ほど積み上がらず、ピークは梅雨と真夏に大きく一度、冬に小さくもう一度、という形になりやすい。
同じ猫、同じ換毛期でも、ピークの月が数か月ずれる。だから「換毛期は春と秋だから、その前に掃除を」という一律の段取りは、あまり当てにならない。
家庭が直接動かせるレバーは、洗濯の回数
毛とフケを受け止めている場所は、だいたい決まっている。カーテン、ラグ、ソファカバー。布は繊維の間に毛を抱え込み、掃除機では表層しか取れない。粘着クリーナーは表に出ている分だけを拾う。
この三つは、家庭が自分で洗える数少ない対象でもある。洗濯表示を確認して、洗えるものは洗う。カーテンは季節の変わり目にまとめて。ラグは洗えるタイプかどうかで扱いが変わる。ソファカバーは掛け替えが利くので、一番動かしやすい。エアコンのフィルターと加湿器のフィルターも、同じ棚に入れて考えている。
ここで正直に書いておくと、洗濯は万能ではない。カーテンを洗った翌週には、もう毛が付いている。布に残る分を減らすだけで、ゼロにはならない。ただ、冬に閉め切った部屋で過ごす時間の長さを思うと、この数回の洗濯が、室内に残る量を最も大きく動かす操作になる。
それでもゼロにはならない、という前提
換毛の量は猫によって違う。長毛種と短毛種、二重被毛かどうか、室内だけで過ごすか外にも出るかで、抜け方がまったく変わる。年ごとの気温も違えば、梅雨入りの時期も毎年ずれる。だから「何月だからこれをやる」という決め方は、実際にはあまり役に立たない。
代わりに私が見ているのは、窓が閉まっているか、暖房がついているか、この二つだけだ。どちらもイエスなら、たとえ5月でも11月でも、部屋の中に毛とフケが留まる条件は揃っている。逆に、窓を開けられる日は開ける。それだけで、この問題のかなりの部分は外へ流れていく。換毛期の年2回という枠より、その日の部屋の状態のほうが、ずっと正直に答えを出してくれる。