トイレは頭数より1つ多く、最初の1週間はまとめて置かずに家の中の離れた場所へ散らす。爪とぎは床に置くタイプと、背伸びして爪を立てられる高さのタイプを1つずつ。数を決めて、距離を決めて、あとは猫がどちらを選ぶかを見る。この順番さえ守れば、最初の1週間は何を買うかで迷わずに済む。
迎えた日の夜、私は買い物リストを閉じて、代わりに間取り図を1枚描いた。6畳と4.5畳、細い廊下、洗面所、押し入れ。ペンで丸をつけたのは、その猫が隠れそうな場所と、そこから餌の皿まで歩く道筋だった。買う前にやることがあるとすれば、これだと思っている。
数は「頭数+1」、ただし並べて置かない
1匹なら2つ、2匹なら3つ。よく言われるこの数え方は、数そのものより「並べない」という条件のほうが効く。同じ壁に沿って2つ並べた瞬間、私はそれを1つと数えることにしている。
理由は単純で、その一画を猫が避けたら、2つとも同時に消えるからだ。洗濯機の音、人が通る気配、前の日に入れた洗剤の匂い。原因は何でもいい。猫がその角に近づかなくなった時点で、並んだ2つは0になる。
だから置き場所は、数より先に間取りで決まる。私が丸をつけるのは決まって2種類で、ひとつは隠れ場所のすぐそば、もうひとつはその猫が餌や水へ向かう途中の通り道。押し入れの脇にひとつ、廊下を抜けた先にひとつ、という具合だ。
隠れ場所のそばに置くのは、猫が長い距離を歩かずに済むように。通り道に置くのは、もし片方がふさがったときの逃げ道として。来客の荷物が置かれた、洗濯物がかごごと置かれた、襖が閉められた。1週間のあいだに、トイレは意外な理由で使えなくなる。そのときにもう1つが生きていれば、事故は起きない。
狭い家では「離す」を別の意味に読み替える
1Kやワンルームで2つ離して置くのは難しい。私も以前、2つの間が2メートルしか取れない部屋に住んでいた。そのときは部屋を分けるのを諦めて、つい立てで仕切り、片方は入口から見えない向きに変えた。同じ「離す」でも、距離ではなく視線と動線で離す。それでも、同じ角に並べるよりはるかに機能した。
ひとつだけ条件を足すなら、トイレは袋小路に置かないこと。隠れられることと閉じ込められることは違う。奥に逃げ場のない場所だと、猫はそこを避けるようになることがある。
爪とぎは2種類、向きを変えて置く
床に置くタイプは、猫がしゃがんだまま前脚を前に滑らせる。高さのあるタイプは、立ち上がって両脚をかけ、体重をかけて下へ引く。この2つは同じ「爪とぎ」でも体の使い方が別物で、どちらを好むかは猫によって違う。
だから初週は、買い足すのではなく、この2つを同時に置いて比べる。床のものはリビングの端、縦のものは壁際の、猫が伸びをしても天井に届かないくらいの場所。高さが足りないと、途中で爪を引っかけたまま止まるので、その動作が最後まで決まらない。
朝6時、台所で湯を沸かしていると、リビングのほうで爪が布を引っかく音がした。覗くと、床の爪とぎは素通りして、壁際の縦のほうに両脚をかけ、背中を長く伸ばしている。あの音と姿勢を見た瞬間に、この猫は縦だと分かった。以後、買い替えるときも同じ向きのものを選べばいい。最初の1週間は、購入ではなく試験なのだ。
使った瞬間に、その場で短くほめる
爪とぎを使ったら、その場で声をかける。低い声で短く、ひとこと。大げさに褒めると猫は何事かと手を止めるので、私は「いいね」くらいで済ませている。数秒遅れると、何を褒められたのか分からなくなる。
家具で爪をとぐときは、叱らない。抱き上げて引き離すのも避ける。その猫が選んだのは爪とぎの場所ではなく、爪をとぐ場所のほうだから。ソファの角でやっているなら、その角の真横に爪とぎを寄せる。すると同じ場所で、表面だけが入れ替わる。叱って遠ざけても、留守中に戻ってくるだけだ。
1週間は、何も動かさない
トイレも爪とぎも、位置を固定したまま1週間過ごす。理由は2つある。
ひとつは猫の側。猫は家の中に地図を作る。トイレを動かすと、古い場所に行って用を足そうとする。爪とぎも同じで、動かした瞬間に場所の記憶が書き換わる。
もうひとつは、こちらの側。3日目に配置を変えてしまうと、その猫が縦の爪とぎを選んだのか、それとも単に新しい場所が珍しかっただけなのかが分からなくなる。せっかく取れかけていた観察のデータを、自分で消すことになる。
ただし、固定は放置とは違う。何日もその箱に近づかない、排泄を我慢している気配がある。そのときはデータではなく不具合なので、迷わず動かす。
1週間が過ぎたころには、どちらの箱が何時ごろ使われるか、どちらの爪とぎに手が伸びるかが、なんとなく見えてくる。使われないほうを片づけるのは、それからもう少し様子を見てからでいい。1週間で仕上がるのは、こちらの好みの把握より先に、猫の側の地図のほうだ。